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2008年7月

肝機能の考え方

肝機能の解説をします。といってもここでは感染症に関連した肝機能の解説です。もちろん、あくまでも臨床的にアプローチします。

よくあるピットフォールその1
・肝機能異常=ウイルス性肝炎という誤謬
HBsAG(B型肝炎表面抗原)とHCV抗体だけを測って、
「B型肝炎、C型肝炎は否定的です」
「じゃ、どうして肝機能悪いの?」
「、、、、、」
というのはよくある話。そもそも、ウイルス性肝炎も、A型やE型(こっちは簡単に診断できないけど)もあるのだから、BとCで満足してはいけません。

 こっからは私のあくまで個人的な見解なのですが、日本の研修医の多くが上のような失敗をしてしまう遠因に、PBL、problem based learningの間違った運用があると思います。これはきちんと調べたわけではなく、あくまで私が見聞きしたり学生さんの話を聞いたうえでの憶測に過ぎませんが。
 日本のPBLは、形こそPBLというやり方を取っていますが、実際には問題解決型のアプローチを取っていないことがよくあります。問題文章中のキーワードから思いつくことを並べ立て、あとは検査の解釈ゲーム。「この検査が陽性だと○○病を示唆する」といった知識ばかりがついていきます。そしてそのうち、知らず知らずのうちに「この検査が陰性だと○○病は否定的」という隠喩が込められてきます。
「検査陽性だと○○病」「検査陰性だと○○病は否定的」という議論は日本の多くのケースカンファで語られるところです。検査前確率も感度特異度もまるで無視、です。さらに、このような議論形式で「検査陰性だと○○病は否定しました」ということで研修医が満足してしまい、「もう私の仕事は終わった」といわんばかりです。だから私に
「だったらいったい何なの?」とつっこまれるのです。
 これが本来のプロブレムに乗っかったアプローチのはずです。(典型的な)公務員・お役所との、「それについては通知を出しました」「でも問題は続いてんですけど」という不毛な会話を思い出させます。

 ウイルス性肝炎以外にも肝臓を悪くする病気はたくさんあります。自己免疫性肝炎、薬剤性肝炎、primary sclerosing cholangitis(PSC)、Primary biliary cirrhosis(PBC)、ウイルソン病などなど。いきなりそういう疾患群を全部検査する必要はありませんが、「ウイルス性肝炎否定的です、おしまい」になるのはよくありません。

よくあるピットフォールその2
・肝機能を悪くするのは「肝臓の病気」だけではありません。
 
 よく見逃されているのは、伝染性単核球症です。肝機能異常が目立ちますが、頚部リンパ節腫脹など、「肝疾患」では説明が付かない急性あるいは亜急性の疾患です。血液検査だけで熱をアプローチし、問診や診察をさぼっていると簡単に見逃してしまいます。
 伝染性単核球症をみたら、次のアプローチは「何が起こしているIMか」となります。多くはEBVですが、CMV、トキソプラズマなどさまざまな病原体が起こします。忘れていけないのはHIV。伝染性単核球症をみたら必ずHIV感染を鑑別に入れましょう。このとき行う試験は、EIAだけでなく、PCRが必要です。
 ときに、伝染性単核球症はとんでもなくLDHが高くなってびっくりすることがあります。私も昔、1000以上のLDHをみて「これはリンパ腫じゃないか」と心配になり、当時勤めていた診療所から大きな病院に紹介したことがあります。なんのことはない、EBVによる伝染性単核球症でした。
 あと、右心不全に伴う肝機能異常もよく見ます。
 感染症だと、レプトスピラ、マイコプラズマ、Q熱あたりがときどき肝機能異常を起こしますが、少しマニアックでしょうか。いきなり飛びつく必要はないでしょう。
 むしろ覚えておくべきは「敗血症」です。敗血症でときどき直接ビリルビン有意のビリルビン上昇を起こすことが知られています。臓器障害を伴う、いわゆる重症敗血症「severe sepsis」ですね。敗血症が治れば自然に下がってきます。敗血症によるビリルビン上昇と、薬剤(特に抗菌薬)によるビリルビン上昇の鑑別はときどき難しいです。敗血症がよくなって行くに従ってビリルビンが下がっていけば薬剤によるものは否定的でしょう。このように、「時間が解決してくれる鑑別診断」はよくあります。逆に、敗血症がよくなっているのにビリルビンはどんどん上昇していれば、これは薬剤を強く疑います。どっちか分からない場合は原因菌をカバーする異なる系統の抗菌薬に変更する、というのも選択肢かもしれません。ビリルビン上昇=胆管炎、胆嚢炎、というのもよくある誤謬です。ビリルビンが上がった発熱でも肺炎や尿路感染と言ったコモンな疾患は必ず鑑別に入れましょう。
 その胆管炎、胆嚢炎もよく勘違いされる疾患です。まず大切なのは、
 胆管炎と胆嚢炎は違う!
 ということです。もちろん、例外的な、胆嚢炎から続発する胆管炎(Mirizzi症候群)なんかもありますが、両者を明快に区別するのはきわめて重要です。
 なぜ両者を区別するのが大事かというと、呼ぶ医師が変わってくるのです。基本的に

 胆管炎は消化器内科の病気
 胆嚢炎は外科医の病気

 です。これが両者をもっとも端的に言い表した表現だと私は思います。
 胆管炎は総胆管閉塞を起こす疾患で、経皮、あるいは経消化管的なドレナージが必要です。内視鏡の得意な日本では内視鏡的胆道ドレナージ(ENBD,ERBD)の方が多いでしょうか。ドレナージさえしっかりしていればさくっと治ってしまう疾患です(悪性疾患がらみは手強いですが、、、、)
 胆嚢炎は、「胆嚢管cystic duct」の閉塞からおきる胆嚢内圧の上昇、炎症、そして(たぶん)感染症と展開する疾患で、治療の基本は胆嚢摘出術です。腹腔鏡あるいは開腹術となります。経皮胆嚢ドレナージはあくまでもオペができない人のための次善の手段であり、原則は手術が治療法。急性期にオペをしてしまうか、急性期が過ぎて胆嚢がぐずぐずになってしまえば抗菌薬で炎症が治まるまで待ってから手術で治療します。
 胆管炎は総胆管閉塞による、「胆道系酵素」の上昇がよく見られます。ビリルビン、LDH、γGTP、ALPなどです。しかし、胆嚢炎は原則総胆管は開いていますから、胆道系酵素異常は起きなくてもOKです。
「肝機能正常で、胆嚢炎、胆管炎は否定的です」
なんてプレゼンをする研修医は多いですが、ぶっぶーですよ。実のところ、胆嚢炎では肝機能がまったく正常な場合だって珍しくないのです。理由は考えてみてくださいね。
 むしろ、胆嚢炎の診断には問診、診察と画像の方が威力を発揮すると思います。その話は「画像編」でいたしましょう。

よくあるピットフォールその3
・肝機能正常で、肝臓は大丈夫です。
 実は肝硬変だったりします。肝硬変と「肝機能」は見ているところが違うのです。トランスアミラーゼ正常(あるいは低値)の肝硬変は珍しくありません。
 肝硬変の指標としては、身体所見(asterixisなど)、腹水の有無、アルブミン、凝固機能など、いわゆる血液検査の「肝機能」でないところも重要になってきます。血小板減少なんかも大事ですよね。肝機能だけが肝臓のマーカーではないことも注意してください。
 肝硬変をもつ患者の起こしやすい感染症って何でしょうか?感染症マニアはすかさず、
「Vibrio vulnificus感染」
 というでしょう。もちろん、それは大正解ですが、頻度的に多いのは、おそらくSBP、spontaneous bacterial peritonitisです。
 SBPは結構見逃されています。肝硬変があって腹水がたまっていて熱があれば、そうでないと分かるまではSBPです。臨床症状はパットせず、腹膜炎、という名前が付いている癖におなかは柔らかくて痛くもかゆくもない、というのが典型です。血液検査はぱっとしません。肝機能も正常のことが多い。腹水を取って、好中球(白血球にあらず)250以上を持って診断します。

よくあるピットフォールその4
・LDHが高くなる疾患だからといって肝疾患とは限らない
 感染症系で多いのは、PCPなど肺疾患です。他にも溶血性貧血、心筋梗塞や横紋筋融解症、リンパ腫や白血病なんかでも上昇します。LDHは肝臓、赤血球、筋肉、悪性腫瘍内に存在して、それらの破壊による上昇があるからです。伝染性単核球症でも上昇するのはすでに述べたとおり。ときどき、リンパ腫との区別が難しい伝染性単核球症が、あるいは一見伝染性単核球症に見えて実はリンパ腫だった、ということがあります。LDHのサブタイプがよく検査の教科書で解説されていますが、私自身はあの測定を必要としたことが、ほとんどありません。臨床的に判断できることがほとんどですし、分からないものはサブタイプを測ってもよく分からない、、、、、

最後に、間接ビリルビンの上昇。無症状であればGilbertが一番多いと思いますが、リファンピンで上がることがあります。梅毒治療でおつまみにつかうプロベネシドでも間接ビリルビンが上がることがあります。

参考
田中和豊 問題解決型救急初期検査 医学書院
Jaundice. In. Harrison's Principles of Internal Medicine 17th ed.

抗生物質王国の夕日(追記)

過去の出来事に現代の目で指摘するのはやや残酷です。そんなことをしてしまえば、織田信長も徳川家康も単なる大量殺人者になってしまう。

ただ、厚生省・厚労省が医療費との絡みで抗菌薬を勝手に操作していた当時の記事は、現在の医師数などの調整で医療費を安易に削減に走って起きた「医療崩壊」とパラレルです。要するに同じ構造で間違い続けているのです。そして、その当時の失態が今にいたって改善されていない、そういう構造こそに問題があるのでしょう。

私は、少し前に結核行政の問題点にもの申し、厚生労働省結核感染症課の役人と議論しました。彼は亀田総合病院で研修を受けていて、まともな臨床医療とは何かをよく理解している人物でした(医師免許を持っていて医系技官だからといって「現場」を知っていると思ってはいけませんから、彼のような存在は貴重です。短期間の表面的な「見学」だけで終わっていることも多いのです。そういう人が「現場を理解しています」という場合が実は現場を全く知らない場合よりも危険が多いときすら、あります。でも、理不尽な異動でそういうアセットを無駄遣いしちゃうんだなあ)。

議論を尽くし、行政と医療現場のギャップを少しでも埋められれば、と期待したのに、今年、彼は別の省に異動してしまいました。こうして、1−2年おきのローテーション、ジェネラリストという名前の付いた、その実、生涯初期研修医状態の霞ヶ関の論理がはびこります。

歴史を振り返る場合も、事実や事物を見るのではなく、「構造」を見るのが大事です。感染症構造主義って感じでしょうか。

抗生物質王国の夕陽

現在、故あって日本の臨床感染症界の歴史を調べ直しています。過去の新聞報道を読み直すと、私たちがなぜ今このような立ち位置にいるのか、いろいろ考えさせられます。いくつかご紹介しましょう。

1983/07/01, 日本経済新聞 朝刊

「抗生物質のトップメーカー」塩野義製薬がシオマリンで収益を伸ばしている、という記事。

「八千六百億円(生産額全体の二二%、五十七年)と医薬品の最大マーケットで、かつ最大の激戦区でもある抗生物質の分野で、武田薬品工業、藤沢薬など競争相手を抑え、引き続き先頭を走る自信が吉利社長の強気の発言の背景にあるようだ。現在、同社は抗生物質だけで月商十億円以上の大型商品を五品目もかかえており、“抗生物質王国”と呼ばれているのもうなずけよう」

という感じです。今だったらこんなコメントをすれば大ブーイングで株価が下がってしまいそうです。この時代、抗生物質は医薬品業界の牽引役であり、使えば使うほどよい、という流れを作ってしまいました。

そんな中、

1981/12/29, 日本経済新聞 朝刊

藤沢薬品工業(現アステラス製薬)などが2グラム入りの第3世代セファロスポリン(記事には説明無し)を申請していたのですが、厚生省が「2gにすると高額」という理由で難色を示し、販売中止になったという記事。日本独特の少量投与の流れができた理由の一つが、ここに垣間見ることが出来ます。

「厚生省はその理由として(1)大容量品の標準品に対する薬価倍率がこれまで日本では欧米諸国に比べ高かった(2)容量の多い規格品が大量に出回ると標準品で間に合う場合にも気軽に大容量品が使われ、水増し請求に使われる恐れがある――などを挙げている」

この役所の安易な決定が、その後数十年にわたる日本感染症界に大きな禍根を残したのでした。薬価を効能より重要視するような判断が(新聞報道されても平気なほどに)当然視されていた、黄金の80年代、という感じです。

1981/10/29, 日本経済新聞 夕刊

日本病院薬剤師会常務理事 国田初男氏の論説。一部、紹介します。みなさん、口あんぐりの準備はよろしいですか。

「開業医や病院で最もたくさん使っているのが「抗生物質」だ。日本では年間約八千億円分をつくっている。抗生物質は、細菌感染症の治療薬。カゼというのはそもそも細菌より下等な生物であるウイルスが原因でかかるのだが、カゼがちょっとでもこじれた状態になると、それを引き金に気管支炎や肺炎など細菌感染症を併発する。抗生物質はこうした症状を抑える働きがある。
 ところで人間の体内にはもともと良い細菌と悪い細菌がバランスよく共存していることが明らかになっている。しかしなんらかのきっかけで体が弱ると、このバランスが崩れて人体に害になる細菌が異常に増えてしまう。こうした“悪い細菌”の増殖を抑えるのも抗生物質の重要な役割。そこでたとえば手術後の患者などにも抗生物質をたくさん用いる」

うーん、ウイルスって細菌より下等だったのか、、、ってこういうディオちっくな部分が突っ込みどころなのではありませんよ。黄金の80年代ならぬ、日本暗黒の80年代、、、、バブル崩壊後の失われたうん10年よろしく、日本がこの時代に失ったものはあまりに大きかったのでした。

今まで死ぬ病気だった重症溶連菌感染症が劇的に治った!と先に紹介したアメリカ初のペニシリン使用を目撃した先生はインタビューでそのときの感動を伝えてくれます。もちろん、抗菌薬は人類にとって福音だったのです。しかし、なぜ、こんなことに。考察は続きます。


history of penicillin in US

The first use of penicillin in the United States
Ann Intern Med 2008;149:135

歴史的なアメリカでのペニシリンデビュー戦です。どのようにイギリスから紹介され、入ってきたか、患者の尿からまたペニシリン抽出したり、驚きのエピソードです。podcastでインタビューも聞けます。

スローワイン

今日は朝回診をしたあと、自由時間。こどもとチーズパンを作りながら、南アフリカのワインを楽しみます。

スローワイン2006

これは本当に深みのあるいいワインで、しかも安いです。近所のワインの大先生に勧めていただきました。ヨーロッパのワインでは、このお値段でこのクオリティーはむりっす。

麻疹抗体検査

麻疹抗体検査の解釈

 諸外国では免疫確認のためにしか使わない麻疹の抗体検査ですが、日本では未だにアウトブレイク後の対応や臨床診断に用いられています。未だに麻疹が流行っているなんて、本当に日本は恥ずかしい。もっとも、関西の某大学も最近流行ったので面目ないとしか言いようがありません。

 麻疹という疾患は臨床診断でいけることも多く、特にKoplik斑を認めればかなり高い特異度で診断可能でしょう。血液検査では、一般に血清学的な検査が用いられます。
 
麻疹の診断

 麻疹の診断にはEIA (enzyme immunoassay)のIgMを測定します。

 ちょっと脱線。私は検査の素人なので、EIAとELISAの違いがうまく理解できていませんでした。そこで調べてみると、以下のような説明があります。

http://www.osaka-amt.or.jp/mtqa/qa036.html より

「免疫の本を読んでいてよく分からなかったのですが、EIAとELISAの違いは何なのでしょうか? 出来れば具体的に教えていただけませんでしょうか。 

 EIAとは抗原抗体反応を利用して物質を測定する方法のうち、「酵素を標識物とする方法」の「総称」です。 EIAにはご存知のように均一系(Homogeneous)と不均一系(Heterogeneous)があり、ご質問のELISAは不均一系のものです。
 不均一系は競合法と非競合法に大別されます。この系は高感度ですが、検出したい物質の分子量はある程度の大きさが必要になります。
 競合法は、一定量の抗体をビーズやプレートなどに固相化し(固相化しない方法もある)、被検試料(目的物を検出したい試料)ならびにあらかじめ用意してある一定量の酵素標識抗原を同時に反応させ、結合できた酵素標識物の量から被検試料中の抗原(目的物)の量を知る方法です。
 一方、非競合法は競合法と同様に抗体(あるいは抗原)を固相化して、そこに被検試料(目的物)を反応させた後、酵素標識抗体を反応させることにより目的物の量を知る方法です。
 ELISAは、このように固相化した方法でのEIAのことを指します。」以上、引用終わり

なんちゅう分かりづらい説明や。何度か読み直さないと何のことだかわからない。

 Manual of Clinical Microbiology 8th ed. を開くと、英語にもかかわらず、ずっと分かりやすい説明が載っていました。

「Because there are number of configurations of these EIA systems, more specific names may be used, such as the enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA), in which an antibody or antigen reagent is adsorbed (sorbent) onto a solid-phase support」

両者の説明のわかりやすさからいろいろな教訓を得ることができますが、今回はそこは割愛、、

 脱線終わり

 麻疹IgMは皮疹がでた時点から陽性になり、4週間はその後陽性が続くといいます。もちろん、完璧な検査などこの世には存在しませんから、問題点はあります。発症すぐに、特に発疹前に採取した検体だと偽陰性がでることがあります。また、ある検査系では発疹初日に採取した検体でも77%しか検査が陽性になりませんでした。
 偽陽性も問題です。IgMではリウマチ因子の存在で偽陽性になることが知られています。リウマチ因子はIgGに対するIgMですよね。
 EIAの感度、特異度はそれぞれ90%、99%くらいだそうです。メーカーによっても若干差があるでしょうが。陽性適中率、陰性適中率は麻疹のはやり具合や検査前確率によって動くそうで、50%以下になったり、99%になったりするそうです。計算上は、感度特異度は疾患の頻度に依存しないので動かないはず(ですが、けっこう差が出るような気がします。理由はよく理解できませんが)。
 また、パルボウイルスB19や風疹ウイルスと交叉反応を起こして偽陽性になると言う記載もあります。実は、私も30代女性の微熱、関節痛、うっすら皮疹の患者さんで「麻疹IgM陽性でした」というふれこみで紹介されたことがあります。おかしいな、全然麻疹ちゃうやん、ということでパルボIgMを調べたらばっちり陽性でした(お子さんもリンゴ病でした)。妥当な問診と診察、臨床判断を抜きにした検査がいかに人を誤らせるか、という典型だと思います。パルボの抗体は妊婦さん以外には保健適応がない、という理解不可能な規則が感染症王国日本にはありますが、個人的な経験では結構保健は通ってしまうことも多いです。この辺のしくみもよく理解できません。謎の多い感染症王国日本。

 よく用いられているhemagglutination inhibition (HI)法は感度、特異度ともに問題があるため、EIAを用いる方がベターです。これは、後述するIgGについても同様。ちとお値段は高いですが。中和抗体法(PRN assay)は感度も特異度も高いですが手間も時間もかかるので臨床現場ではあまり用いにくいようです。
 
 麻疹のIgGは過去の感染や予防接種の効果を判定するのに用いられます。そのカットオフ値(基準値にあらず)はメーカーによって異なります。しかし、どのくらいの抗体価をもってprotective、麻疹からは安全、とするかについてはあまり確たるデータがありません。実験で検証するのも難しいですしね。専門家の間でも諸説あるようです。カットオフ値を変化させるだけで、ワクチン接種回数が大幅に変わります。本来は1回しか打っていない方は全員ワクチンを打った方がいいのかもしれません。この辺はお金の問題もありますから、議論の余地のあるところです。

 厚労省は高校生や中学生に追加の麻疹ワクチンを打つようプランを立てましたが、例のごとくの広報下手で接種率は低いままです。またまた脱線になりますが、例の採血ホルダーや微量採血器具問題の遠因の一つは厚労省の広報下手のためです。正答率があまりに低い試験問題は不適切問題であり、医療機関の多くが認識していなかった通知は不適切通知なのです。お役人や公務員、独立行政法人の人たちは「通知しといたはず」「HPに載せておきました」という無責任な発言が多くて困ります。博○堂かなにかで研修を受ければいいのに。久しぶりに感染症情報センターのHPを見ましたが、ずいぶん様変わりして見やすくなっていました。しかし医療従事者でない一般の方で、どれだけの人がこのサイトを自主的に見てくれるでしょうか。このサイトは興味関心のある人が検索するには便利ですが、「興味も関心もない」人たちにメッセージを伝えるには、バナーを貼る、yahooやgoogleのHPにリンクをつける、公共広告機構などを使ってテレビCMなどの工夫が必要だと思います。
 2006年にようやく小児の定期予防接種でMRワクチンは二回打ちになりました。日本が麻疹フリー宣言を出すのは一体いつのことでしょう。大学や病院は「国はあまりあてにならない」という事実を受け入れて、自分たちの力で自分たちの組織を守る努力を、しばらく続けなければいけないのです。

写真は、街角で見つけた渋いタイトルの、本屋

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血液培養の嫌気ボトル

血液培養の嫌気ボトルは必要?不要?という議論がけっこうされてきました(日本では、血液培養そのものをきちんととっていなかったので、そういう議論の前提すらまだないわけですが)。これをプラスマイナスではなく、患者に応じて選択できますかねえ、という論文です。

このデータまとめでロンドン大熱帯医学衛生学校で修士号をいただいた、ちょっと思い出の研究でした。

TFC香川

連休はTFC香川の勉強会でした。これまで須藤先生のレクチャーを拝聴する機会をなぜか逸していたので、今回こそはとの参加でした。本当によいレクチャーで勉強になりました。やっぱフィジカルは大事です。

http://www.carenet.com/store/dvd/sudo/01.aspx

本日は、うどんツアーでした。おいしかったです。TFC香川の皆様、本当にありがとうございました。

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梅毒検査の考え方3


さて、理解を深めるために、実際のケースで見てみましょう。梅毒検査は検査からアプローチせず、患者からアプローチするのが大事だと思います。

77歳女性。大腸癌手術前の梅毒検査でRPR 2.0、TPHA陽性(数字は気にする必要なし)。梅毒的には無症状

解釈と対応
・おそらく過去の梅毒、serofastでRPR低値のまま。もしかしたら過去の梅毒プラス生物学的偽陽性かもしれないが、いずれにしてもやることは同じ。特別なことはしない。

25歳男性。無痛性の潰瘍がペニスにあって受診。RPR陰性、TPHA陽性。

解釈と対応
・おそらく一期の梅毒。TPHA IgMが上がっているところ。ペニシリンで治療。他のSTDも探して、パートナーにも介入しましょう。HIV検査も忘れずに。

44歳男性。発熱、皮疹にて来院。RPR16倍、TPHA陽性

解釈と対応
・おそらく二期の梅毒。治療とその他の対応は一期の梅毒同様に。

56歳男性。「うつ病」という理由で精神科病棟に入院中。肺炎になって一般病棟にて内科治療。ここでRPR16倍、TPHA陽性。

解釈と対応
・うつ病ではなく、神経梅毒を考え、髄液検査。この患者は髄液細胞数33で単球優位、蛋白微増、VDRLは陰性だったが偽陰性と考え神経梅毒としてペニシリン大量投与で14日間治療。劇的に神経症状は改善した。HIVも陽性であった。

44歳女性。発熱と関節炎、皮疹で入院。RPR陽性、TPHA陰性。

解釈と対応
・皮疹があるので二期の梅毒を考えるが、TPHAが偽陰性になるのはこのステージではまれ。この患者はSLEと診断され、RPRは生物学的偽陽性であった。

77歳男性。老人ホーム入所時の梅毒検査でRPR8倍、TPHA陽性。無症状。

解釈と対応
・おそらく潜伏梅毒。神経梅毒をワークアップするかは微妙(患者次第かな、、、)。ペニシリンにて治療し、他のSTDもワークアップ。

どうですか。結構イメージがわいてきましたか。他の検査同様、梅毒検査も臨床的なコンテクストが大事です。RPRとTPHAのプラスマイナスの2x2表ではうまく理解できないことが多いので、ケースで理解することをお奨めします。

梅毒検査の考え方2

 梅毒の検査は主に血清学的に行います。どうしてかというと、T. pallidumは未だにラボでは培養できないのです。T. pallidumの遺伝子構造が分かったのも確か最近の話でした。梅毒のPCRによる診断はまだまだ先の話のようです。
 さて、梅毒の血清学的検査です。この解釈は教科書を何度読んでも難しい。これは検査からアプローチするから、失敗するのです。では、どうしたらよいか。

 いわゆるワ氏反応、Wassermann反応は、ワッセルマンさんにより1906年に発表されました。 UpToDateにはドイツ語のこの論文が引用されていますが、私は読んでいませんし、ドイツ語論文読めません。

Wassermann, A, et al. Eine serodiagnostische reaktion bei syphilis. Dtsch Med Wochenschr 1906; 32:745.

 梅毒の血清学的検査は、梅毒に感染した患者の抗体を見ています。特異的、非特異的な検査と大きく二つに分けられます。

 非特異的な検査には、ガラス板法、RPR法(rapid plasma reagin)、VDRL法(venereal disease research laboratory)などがあります。cardiolipin-cholesterol-lecithin抗原に対する抗体を調べていますが、梅毒以外でも上がります。典型的にはSLEですが、慢性肝疾患や、伝染性単核球症、関節リウマチ、結核、HIV感染などでも上がることがあります。非特異的な検査は定量的な測定が大事です。希釈倍量で表示し、2倍、4倍、8倍と倍数で表示されてきたのでした。通常は8倍以上でもって有意とします(検査の説明書だと陰性が基準値だと記されていますが、臨床的にはそうは判断しません。たぶん、この辺が梅毒検査を間違った方向に判断させている最大の原因です。これはあとで解説します)。ただし、生物学的偽陽性でも高いタイターが出ることがあるので、ここは注意が必要です。治療をすれば下がりますが、ゆっくり年単位で下がるので、次の週に陰性化していなくてもがっかりする必要はありません。
 最近、これが倍数指標ではなく、1.0といった実数表示になりました。沈降反応の希釈倍率を見ていたガラス板法からラテックス凝集反応に変更になったからだそうです。いちおう、メーカーの説明だとこの数値と倍数の数字は同じように扱えばよい、と説明されていますが、はて。
http://www.okayama-u.ac.jp/user/hos/kensa/nvirus/glass.htm

 特異的な検査は、FTA-ABS(fluorescent treponemal antibody absorption)、TPPA(treponema pallidum particle agglutination assay), TPLA (treponema pallidum latex agglutination)、TPHA (treponema pallidum hemagglutination)などがあります。これはT. pallidum 特有の抗原を用いますから、「特異的」であり、陽性であれば梅毒の存在、あるいは梅毒「だった」可能性が高いです。ところが、特異的な検査も実は生物学的偽陽性があり、1% くらいにおきるそうです。ただし、熱が出たとか予防接種を打ったときに起きる一過性のものが多いとか。

Larsen, SA. Syphilis. Clin Lab Med 1989; 9:545.

 特異的な検査は定性的に判断します。陽性か、陰性か、それだけです。何倍、という数字は臨床判断の役に立ちません。治療をしても下がりませんし、下がってもがっかりする必要はありません。これは見なくてもいいのです。

さて、それでは各論です。臨床現場ではどのように検査を使うのか。

 一期の梅毒、下疳(潰瘍ができる)の時期です。このときは血清学的診断があまり役に立ちません。感染初期なので抗体が上がっていないことが多いのです。痛みのない陰部潰瘍ということで臨床診断してしまうことが多いですが、これも非特異的なので教科書ではdarkfield microscopyでスピロヘータを見つけることを推奨しています。これは、病変部を取ってきて、特殊な顕微鏡で光学顕微鏡でも見つけられない小さな小さなスピロヘータを見つける方法です。が、多くの医療機関では用いられていません。技師さんの特殊な技術も必要なようです。私も米国のSTDクリニックで見たことがあるだけです。一期梅毒では血液検査はあまり役に立ちません。
 ところで、一期の梅毒で一番最初に立ち上がってくる抗体は何でしょうか?これは、RPRではなく、特異的なFTA-IgMです。RPR陰性、FTA陽性だと「治療済み」と判断されやすいですが、一期の梅毒でもそうなることがあるのです。あくまでも臨床的なコンテクストが大事で、臨床判断から検査、というアプローチをすれば間違えません。

・一期の梅毒では、梅毒検査はRPR陰性、TPHA陰性が多い。RPR陰性、TPHA陽性(IgMが上がって)のこともある。RPR、TPHAともに陽性のこともときどき。要するにどの結果になっても判断できません。

 二期の梅毒では、ほぼ全例非特異、特異的な検査両方が陽性になります。まれにRPRが陰性のことがあり、これは抗原量が多すぎるために起きるprozone反応のためと考えられています。ただ、経験のある技師さんに聞くと、prozoneの状態では見え方が異なるので「分かる」のだそうです。このような血清は希釈してやると陽性になります。

・二期の梅毒ではRPR陽性、TPHA陽性。

 症状のない梅毒、潜伏梅毒(latent syphilis)では、二期の梅毒同様、RPR陽性、TPHA陽性です。三期も同様ですが、きわめてまれで私は見たことがありません。

 治療効果の判定にRPRは有用です。TPPAのような特異的な検査は役に立ちません。こちらは測らないのがいいのでしょうが、多くのラボではRPRとTPPAを込みにして「梅毒検査」としているので、分けて測れないのですね。フォローの場合は同じ検査・アッセイ系でフォローするのが大切です。患者によって抗体の下がり方は差がありますが、大体1,2年かけて下がりますから、数週間で下がらなくてもがっかりする必要はありません。一期、二期の梅毒は早く下がってきます。潜伏梅毒では遅いと言われています。もし、タイターが上がった場合、治療失敗や再発というより再感染の可能性が高いです。STDは必ずパートナーも診断・治療するのが原則ですね。特異的検査は陰性化しないのでフォローの必要はないですが、UpToDateによると24パーセントで陰性化するそうです。特にHIVの患者さんでは多いそうです。まあ、だからどうだ、ということはないですが。

 HIV感染と梅毒はなかなか診断に影響します。HIV感染があると検査の偽陰性があったり、逆に偽陽性になったりタイターが高くなったり不思議なことが起きるのです。なにしろ、梅毒の血清検査は抗体検査で、抗体産生はB細胞の機能に影響されています。HIV感染者はT細胞の異常だけではなく、B細胞も異常なのですね。FTA-ABS偽陰性の報告もあり、HIV患者の梅毒検査の解釈はとても難しいと言われる所以です(治療も難しいですが)。

・HIV患者は全員梅毒検査を
・しかし、その解釈は結構難しい。
・HIV感染があると神経梅毒の合併も多い。血清検査が陽性なら髄液検査を。

 神経梅毒は一期、二期、三期のいずれのケースでも合併する独立した病態です。髄液検査で診断しますが、その解釈は結構難しいです。
 まず、血清RPR32倍以上では神経梅毒の可能性が増します。HIV感染がなければリスクは10倍、HIV感染があっても6倍に増えるそうです。
CID 2007; 44: 1222
JID 2004; 189: 369
 HIV感染があり、CD4が低いと神経梅毒の可能性は高くなります。細胞数、蛋白、髄液VDRLなどどれが異常であっても神経梅毒と判断することが多いです。髄液VDRLは特異的ですが感度が低い(30%くらい!)ので、陰性は神経梅毒否定ではありません。細胞数は単球優位で10−400/uLというチョロ上がりのことが多いです。蛋白もチョロ上がり。髄液のFTA-ABSは感度が高く、除外に役に立つと言いますが、あまり用いられることはありません。

・神経梅毒では血清RPR陽性(高値のことが多い)、TPHA陽性。髄液検査は様々。

参考 Hicks CB. Serologic testing for syphilis. UpToDate 16.1. last updated December 8, 2006

さて、理解を深めるために、実際のケースで見てみましょう。梅毒検査は検査からアプローチせず、患者からアプローチするのが大事だと思います。

梅毒検査の考え方1

梅毒を制するもの、医学を制す

He who knows syphilis, knows medicine.

だったかな。そういったのはウイリアム・オスラーだったと思います。頭の先からつま先まで様々な症状を示す梅毒はまさに内科の王様と呼んでもよいでしょう(もっとも、HIVもこの点では負けていませんが)。

ところが、その内科の王様梅毒があまりきちんと勉強されていません。感染症は甘く見られているためです。ハリソンの内科学ではもっともページが割かれている感染症領域ですが(本当です)、その感染症が一番ほったらかされているのです。

特に問題なのは検査です。検査の解釈がしばしば間違っています。検査の適応もずいぶん間違っています。そして、検査の部分で間違っているので、その結果治療の部分でも間違ってしまうのです。治療薬の使い方も検査に基づいて決断されているためです。要するに何から何まで間違ってしまうのです。

検査の解釈の間違い、というのは、換言すればアセスメントの構築の方法論が根本的に間違っている、ということになります。が、ここまでいくとちゃぶ台ひっくり返し状態になって収拾が付かなくなりますから、ここではほったらかしておきましょう。

では、梅毒検査をどう考えましょう。

まず、梅毒検査が最も多く行われているのは、どういう状況でしょう。これは施設間でも違いがあるでしょうが、たぶん、この2つがツートップ、いや、トップツーでしょう。

1.術前に何となく
2.とりあえず、何となく

どうです?皆さんの勤める病院でも五十歩百歩ではないでしょうか。

しかし、全ての検査について言えることですが、本来、検査とは
・その疾患を疑っているとき
検査すべきなのです。従ってこの場合では、
・臨床的に梅毒を疑っているとき
ということになります。

決して「なんとなく」「とりあえず」という理由で梅毒検査を行ってはいけません。そして、術前のルーチン梅毒検査は不要です。これから、その理由を説明します。
 黒澤明の「静かなる決闘」という映画があります(岩田未見)。三船敏郎演じる医師が針刺しで梅毒になって悩むという映画だそうです。黒澤映画って男女関係の描き方が古いなあ、とよく思いますが、それはまた別の話。 
 しかし、針刺しによる梅毒の感染はまれです。特に無症状(潜伏梅毒、latent syphilis)の場合はほとんどおきないと考えられています。だから、無症状の患者の梅毒検査をルーチンでやることは、外科医の防御には役に立たないのです。

ただし、有症状の場合は、感染の報告はあるようです。下記は神経梅毒患者からの針刺し感染です。診断の付いていない神経症状、皮疹、熱などがあれば要注意。

Franco A et al. Clinical case of seroconversion for syphilis following a needlestick injury: why not take a prophylaxis? Infez Med. 2007 Sep;15(3):187-90.

 でも、術前にそういう症状がある患者ってまれですし、多くの場合は診断が付くまでオペ延期になります(例外もあるでしょうが)。まれなものはまれ、一般論と例外論は区別するのが臨床現場での大事な態度です。逆にいうと、針刺しで感染する「可能性」のある病原体はもっともっとあるのです。パルボウイルスとか、マラリア原虫とか、クロイツフェルツヤコブ病の原因と考えられている(異論もありますが)プリオンとか。でも、こういうのを全部、全ての患者にオペ前に調べるのは、ややナンセンスですよね。
 針刺しで(起こったときに)調べるべきはB型肝炎、C型肝炎、そしてHIVです。これらが針刺し感染の大多数を占めているのです。HIVは1985年から1999年までに米国で136ケースのHIV感染を起こしたかも、と見積もられています。HBVにいたっては、米国では1995年だけで800人の感染を起こしたそうです。日本だと予防接種を打っていない医療者も多いですから、そのリスクはもっと高いかもしれません。HCVについては正確な数は不明ですが、毎年米国で何千人という規模で感染を起こしているようです。

NIOSH. ALERT. Preventing Needlestick Injuries in Health Care Settings. 1999
http://www.cdc.gov/niosh/2000-108.html#1

 HBV, HCV, HIVに対する術前ルーチンワークアップの是非についてはいずれ機会を見て議論しますが、少なくとも、梅毒についてはルーチンではやる必要はないと私は考えます。

さて、これが原則です。この原則を理解できれば、現在病院で行われている梅毒検査はほとんど不要だと言うことが分かります。

梅毒の検査はあくまで臨床的に梅毒を疑った場合にやりましょう。原因不明の皮疹に「とりあえず」ステロイドを塗布したり抗ヒスタミン薬を出す前に、梅毒検査を考えましょう。原因不明のせん妄や認知障害。梅毒を考えましょう。こういうケースで意外に検査してないんだよな、まったく。

さて、梅毒検査の解釈は結構面倒です。その話を次回からしましょう。

CRPは役に立つ?11

前にもちょっとネタになりましたが、2008年のAmerican Journal of Medicineには、市中肺炎の重症度とCRPの値が相関する、という論文が載っています。

Chalmers JD, Singanayagam A, and Hill AT. C-reactive protein is an independent predictor of severity in community acquired pneumonia. Am J Med 2008;121:219-225.

私は、かねがねCRPと市中肺炎の重症度とは相関しない、PSI(pneumonia severity index)にもCURB-65にもA-DROPにもそんなのは入っていない、と説明してきました。これを反証するデータだと思います。

まさにカール・ポパーのいうところの反証主義でして、一つでもある仮説を否定するデータを示せば、その仮説の真理性は失われるのでした。科学の常でありますし、そのように受け取り、飲み込むしかないように思います(これをまた反証するデータが出ない限り、ですが)。

ところが、この論文を良く読んでみると、実はCRPは予後に対する感度はPSIやCURB-65とどっこいどっこいなのですが、特異度はずっと低いことが分かりました。すなわち、臨床症状や既往歴から得られるPSIやCURBー65を無視し、CRPだけ見ていると患者を過大評価してしまう、ということです。余計な入院や広域抗菌薬の使用が徒に増えてしまうかもしれません。結局のところ、この論文は驚きを持って迎えたのですが、私の今のプラクティスそのものには変容をもたらすことは無いようです。多くのオリジナルな論文がそうであるように、です。

という内容のレターをAJMに投稿したらアクセプトされました。12月号掲載ですので内容は「今は」ここではご紹介できませんが(私も最近まで知りませんでしたが、ほとんどの外国の科学雑誌の論文は、「著者が」ウェブ上で公開することは著作権上問題ないのだそうです)、発表されたら読んでみてください。

CRPは役に立つ?12

「現代思想の冒険」(ちくま学芸文庫)において竹田青嗣は、人間は自分たちのある〈世界像〉を思い描き、その〈世界像〉の中で他者との関係性を結んでいく、という意味のことを(たぶん)書いています。「〈世界像〉の本質は、それが個人を〈社会〉に関係づけ、彼を社会的存在として生かしめるという点にある」のです。ところが、自分が抱えている〈世界像〉や価値観を我々は当然のものと見なし、それを問い直してみることなどありません。この本では、アーサー・ミラーの「セールスマンの死」というドラマのエピソードを紹介しています。そこでは、ある父親が商業的な成功こそが人間の価値である、という〈世界像〉を有しているのですが、これを無能なセールスマンである息子に押しつけようとします。父親がその価値観さえ捨ててしまえば家族たちは和解できるのですが、彼はそれをどうしても捨てようとしません。「彼の現実の存在と、彼の価値観が大きな確執を生じているのである」のであり、こういう事態に直面して、ある人の〈世界像〉が生きづらさをもたらすのです。

 前置きがやたら長くなりましたが、大学病院なんかにいると、CRP絶対依存の〈世界像〉が作られているなあ、と感じることが珍しくありません。そこでは、患者がよくなっているのにCRPが下がらない、どうしよう、と悩む医師がおり、患者はつらそうだけどとりあえずCRPは高くないしな、とほっと胸をなで下ろす医師がいます。おそらくは、それは何らかの過程において徐々にその医師の中で形成された〈世界像〉なのでしょう。この〈世界像〉は〈世界像〉故にそれを抱える医師たちは、それを当然のものとして受け入れ、疑おうともしません。そして、これに対立するような言説を耳にすると、彼らは苦痛を感じてしまうのでしょう。自分の生きている〈世界像〉そのものに疑いを持ったり否定するというのは、苦痛以外の何者でもないのですから。そして、私は最後の部分、自分の〈世界像〉の否定は苦痛である、という部分にとても共感し、同情するのです。全く見解が異なる人に対しても共感を抱けるというのはなかなかの驚きであります。

 CRPという〈世界像〉に支配された医師たちを救うのは、だから、批判でもデータの開陳でもありません。支援です。「しんどいとは思うけれど、僕も毎日患者を見に来ますから、勇気を持って抗生剤止めてみましょうか」という態度かと思います。そして、何ヶ月もあれこれの抗生剤付けにされていた患者のCRPが抗生剤を止めたが「故に」陰性化したとき、それを喜びとする、それをきっかけとするのが大事かな、と思います。新しい〈世界像〉がそこから見えてくるかもしれません。

たまにはお勉強も

removing the golden coat of Staph aureus
NEJM 2008;359:85-

・MRSA用の薬は細胞壁をターゲットにする、たんぱく分解を阻害する、細菌特有の生合成系を阻害する、が主。
・staphyloxanthinはカロテノイドの色素である。黄色ブドウ球菌が黄色いのはこのため。ここをターゲットに出来るか。
・人にはないから、ここの阻害剤は人毒性はあまりないだろう。
・in vitroではsqualene synthase inhibitorでstaphyloxanthinが減った。
・マウスの実験では、dehydrosqualene synthase 遺伝子を欠く突然変異体を腹腔内に注射しても大丈夫だった。ただし、鼻腔への定着率は変化なし。
・腹腔内の注入をdehdrosqualene synthase inhibitorで治療したら、殺菌効果が高まった。
・squaleneはstaphyloxanthinとコレステロール合成の前駆体で、ここを押さえればいいだろう。人間のコレステロールは食べ物で摂取できるから大丈夫、というのが理屈。
・staphyloxanthinはsuperoxide anion, hydrogen peroxide, hypochlorous acidなど好中球が作る物質を無毒化する。これがvirulence factorでは、という仮説有り。
・virulence factorの産生を押さえよう、というアプローチは実は新しい。
・これが臨床で使えるかどうかは、不明。まずいろいろな株のstaphに使えなくてはならない。株の中にはstaphyloxanthinを作らないものもあり、黄色くない。
・25−40%の人は黄色ブドウ球菌定着している。鼻や皮膚にくっついているだけでは意味がないが。その場合、定着菌は好中球の攻撃を受けないから、上記のような薬は効果無いだろう。なかなか面白い議論。toxic shock syndromeにも効果なしか。

"It seems unlikely that the approach used by Liu et al. will singly solve the therapeutic dilemma created by antibacterial-resistant isolates. It does, however, open the door to a new line of clinically relevant research."

勉強になりました。

実習指導者研修会

今日は、西宮市で日本外来小児科学会教育検討会 実習指導者研修会でお話しします。

タイトルは、
「感染症を教えるパラダイム 何を教えるかから、どう教えるか。whatからwhyに」
というものです。

 卒前、卒後の感染症教育が不十分であると言われて久しいですが、どうしたらよいのでしょう。感染症の知識は増え続け、青木先生のマニュアルは倍増し、そのくせ教える時間は短くなる一方です。微生物学は学生にもっとも人気のない科目で、短い時間で増えた項目を無理矢理詰め込もうとするとますます人気がなくなります。どうしたらよいのでしょう。

そこで、何を教えるかだけでなく、どう教えるか、を考えたいです。コンテンツだけではなく、デリバリーも大事、と言うわけです。

臨床現場では問題意識をもって問題の定式化が重要です。しかし、知識だけ詰め込まれて、「○○だったら何とか病」「○○病には××マイシン」という1対1対応で覚えさせられた学生は、現場に出てコンテクスチャルな患者にとまどいます。曖昧さに悩みます。デジタルでない世界にいらだちます。どうしたらよいのでしょう。答えはwhatではなく、whyという疑問のなかにあると思います。

講演会で紹介する、指導医のための感染症の教科書です。他にもあるかもしれませんが。

・お奨めは、ハリソン。ここの感染症の項は本当に勉強になる。
・マンデルは非専門家にはあまり必要ない。
・サンフォードは必須。英語、日本語ありますよ。
・青木眞先生の「マニュアル」は、無人島に一冊だけ持って行け、と言われたら選ぶ一冊(もっとも無人島では役に立たんが、、、)
・藤本卓司先生の感染症レジデントマニュアル、西原先生の「一刀両断」、大野先生の「レクチャーノーツ」は病院で学ぶのなら定番。
・体系的に学ぶなら30デイズ(感染症スタンダードマニュアル)
・予防接種ならRブック
・感染症診療のエビデンスは我田引水ながらよくできた本。臨床的な疑問に答えてくれます。
・小児抗菌薬マニュアル(笠井先生)はいい本です。
・私の本は、もちろん買って読んでね(せこい!)。
・もやしもんは面白い!
・ケアネットDVDもどうぞ!

講演会というか、宣伝会だな、これじゃ。暑いですが、がんばりましょう。

HTLV-1とピロリ、胃がん

HTLV−1感染はピロリ菌感染、胃がん発症の防御因子だというJIDの論文。

JID 2008;198:10-

relevant articlesをみると類似のデータは90年代からあったんですね。全然知りませんでした。

新しい本

新著です。翻訳ですが、

抗菌薬マスター戦略 -非問題解決型アプロー

表紙はほとんど冗談ですが、内容はいい感じだと思います。学生さん、研修医の先生、もう一回勉強し直したい、という方に是非どうぞ。


CRPは役に立つ?10

以前、呼吸器学会の院内肺炎ガイドラインとCRPの話をしました。これについて呼吸器学会に先日お送りした文書が以下のものです。御参考までに。

日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会担当者様

平素より大変お世話になっております。この度は、成人院内肺炎診療ガイドライン作成・出版、おめでとうございます。日本の臨床現場で極めて頻度の高い院内肺炎ですが、明確な診療指針が提示されたのは幸いと存じます。また、ポケット版を無償で現場に配布されるというご判断については前回の市中肺炎ガイドライン同様、大変効果的かつ戦略的で、貴会がお示しになっている学術団体としての先取の姿勢と正義感を強く感じ入った次第に存じます。当院でも既に多くの医師がこのガイドラインを携えております。当院での肺炎診療の質が向上するきっかけになるものと強く期待しています。

その一方で、何点か気になった部分もございます。特に注目いたしましたのは今回の重症度分類です。特にCRPをピボットにしたアルゴリズムは世界でも例を見ないものかと思いますので、慎重にガイドラインを拝読いたしました。気がついた点を申し上げさせてください。

まず、CRPと肺炎の予後を示すに至った、バックグラウンドの論文(Watanabe et al. Internal Medicine 2008;47:245-を読んで気がついた点を申し上げます。

1.本スタディーは日本の院内肺炎の臨床像とファーストラインと銘打たれているカルバペネムの臨床効果を調べた前向き観察研究で、254の国内の病院が参加している。CRPと治療効果の関係はOdds ratioで示されているが、死亡率とCRPの関わりについては論文そのものは詳細に扱っておらず、ガイドラインに示された「診断時CRP別の予後」(表II-4)も掲載されていない。
2.多施設観察研究であるが、院内肺炎の診断基準は曖昧で、施設によるばらつきがある可能性が残っている。特に、院内肺炎の診断基準の中に「CRPの上昇」が入っているが、それがどのように診断に寄与しているかは明記されていない。このため、施設によってはCRPの上昇がない、あるいは十分な上昇がない症例が除外されてしまっている可能性もあり、セレクションバイアスの土壌となっている。
3.Methodsによれば、肺炎の治療は診断後「3日以内に行って」とされている。しかし、すでに院内肺炎の予後が適切な抗菌薬をできるだけ早く投与する、というコンセンサスが得られており、患者予後に抗菌薬投与開始の遅れが寄与している可能性がある。
4.エンロールされた患者の95%ではCRPが計測されているが、呼吸数の計測は55.4%のケースでしか行われておらず(呼吸器学会の重症度分類に記載があるにもかかわらず)、PaO2に至っては34.9%しか計測されていなかった。
5.原因菌の同定基準が曖昧で、呼吸器検体でのMiller-JonesやGeckler分類の記載もなかった。同定された菌が本当に感染症の原因であったのかどうか妥当性の問題があり、施設間の再現性にも疑問が残るものであった。
6.ほとんどのケースで日本の保険診療上の抗菌薬投与量が用いられていた。pharmacokinetics/pharmacodynamicsの観点から言うと添付文書上の投与量が妥当であるかには疑問が残り、これが患者予後に影響を与えていた可能性がある。
6.multiple logistic regression analysisで解析する際、A-DROPなどで示されている血圧などが変数に入っていない。他方、「脱水が-,±,+」という曖昧な変数もあり、これも施設間、研究者間でばらつきが生じる原因となる可能性がある。

 特に問題となるのは、本研究が多施設観察研究であり、多くのバイアスの入り込む余地があるという点です。特にA-DROPやその他の市中肺炎の重症度分類では採用されていた血圧、意識状態といった項目が分析項目に加えられておらず、重症度の判定妥当性に疑問を残します。事実、WatanabeらもDiscussionの中で重症度分類の妥当性については今後の研究を要する旨、きちんと議論しています。
 では、このようなバイアスがCRPと予後の関係に影響を与える可能性はあるでしょうか。私はあると考えます。
 多くのケースで呼吸数やPaO2を計測しておらず、血圧や意識状態が判定のパラメターになっていない場合、どういう仮説が生じるでしょうか。それは、診断の遅れだと私は思います。
 初診時にはCRPが上がっていないのに、数日たって初めてCRPが上昇し出す。臨床医であればしばしば観察する現象です。さて、観察研究におけるCRPが高かったという事象は何を意味するのでしょうか。本当にそれが予後決定因子だから高いのでしょうか。
 むしろ、「診断が遅れてしまい、他のパラメターでは肺炎を示していたのにCRPが上昇するまで見逃されていた院内肺炎」のケースが混入している可能性はないでしょうか。その場合、CRPの高かった肺炎のグループ(と思われたケース)は、実は単に診断・治療が遅れて進行してしまった肺炎であったというだけの話であった。そのような仮説は成り立たないでしょうか。もちろん、呼吸器学会の先生が最初からご覧になっているケースであればこのような因果の逆転は有ろうはずもないでしょうが、紹介されたケースであれば、充分あり得る話だと思います。
 もちろん、全てのケースがそうであったと主張するつもりはございません。しかし、多施設観察研究である以上、交絡因子の検証は極めて困難です。現段階で私の仮説を実証するわけではありませんが、逆に反証する確たる根拠にも乏しいように考えます。
 では、このガイドラインの普及でどのような問題が生じる可能性があるでしょう。「CRPが低い」という根拠で軽症と判断されてしまうリスクがあるかもしれません。特に現在の日本の診療現場ではまずCRPありき、という診療姿勢をおとりのドクターが少なくなく、呼吸数などの他のパラメターはなおざりにされているのが現状です。Watanabe et al. のスタディーもそれを証明しています。

 すでに申し上げましたように、CRPをアルゴリズムに入れて院内肺炎を層別化する、というのは国際的にも画期的なプランです。しかし、その根拠が
1.たった一つのスタディーを根拠にしており、追試が存在しないこと。
2.それが多施設の観察研究であり、方法論的には多くの問題を抱えていたこと
3.さらに、問題となるデータそのものは論文では議論されておらず、ガイドラインに掲載されていた部分はunpublished dataであること(すなわち、peer reviewがされていないこと)

という点で問題です。現代の診療ガイドラインは必ずエビデンスレベルを明記するのが常識になってきていますが、今回の重症度分類のエビデンスレベルは(記載はありませんでしたが)高くはない、と判断するべきではないでしょうか。今回のデータはより厳密な条件下で再検証する必要があるように思います。
 もちろん、今回の学会ガイドラインははじめにCRPありき、という姿勢は取っていません。最初に患者の基礎疾患やバイタルサイン、年齢で階層化し、「重症かそうでないか」はCRPやレントゲン所見で判断していないアルゴリズムになっています。そこは高く評価できる部分だと思います。CRPが寄与するのはあくまで軽症か中等症か、という部分となりますから、方向性としては妥当なものだと感じました。

呼吸器学会会員でもない身分で、いろいろ出過ぎたことを申しまして大変申し訳ございません。今後も貴会の積極的な診療改革の姿勢と正しい感染症診療の普及に敬意をはらい、益々のご発展とご活躍を心からお祈り申し上げる次第でございます。ご多忙の折、お時間をおとりいただきありがとうございました。

岩田健太郎
神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野

Cuvee Du Ribet Rouge

散々な評価もありますが、飲みやすくてよいテーブルワインだと思います。もちろん、飲んだあと風景が変わったり、「おお、、、おおおお」みたいな台詞は出てきません。そういうワインは飲んだことがない、、、、

たぶん、少しメルローが入っているのでしょう。メルローは好きですが、妙に気持ち悪い味になることもあります。峻別は難しいっす。

急性胆嚢炎と日本発英語のガイドライン

急性胆嚢炎
acute calculous cholecystitis. Journal club july 3, 2008
NEJM 2008;358:2804-

日本発のガイドラインが英訳されて世界で閲覧されるべき、とどこかで書いたと思います。今回はそれがでました!素晴らしい。

・毎年米国では2000万人の患者。コストとしては、63億ドル。それにしてもこういうデータ、よくでてくるなあ、と感心。
・胆石が原因で胆嚢炎になるが、胆石そのものは大抵無症状。
・疝痛(biliary colic)は毎年1−4%に。いわゆる「持病のしゃくが、、、」のあれ。
・疝痛があり、ほっておくとそのうち20%が胆嚢炎に!思ったよりも多い。
・総胆管結石や胆管炎、膵炎を合併することも。
・有症状の胆石は腹腔鏡下の胆摘を行うようになり、胆嚢炎は減ってきている。
・60%が女性。ただし、胆石を持っている割合が低いことを考えると、男性は胆嚢炎になりやすい、といえる。
・糖尿病はリスク因子。合併症も起きやすい。
・胆石が胆嚢管につまり、圧が高まり、炎症が起きる。胆嚢周囲に液がたまる。最初はばい菌がいないが、二次的に腸内細菌達が感染を起こす。壊死を起こしたり、ガス産生菌が原因だとまずい。後者がemphysematous cholecystitisである。
・合併症は穿孔や膿瘍形成
・間欠的な痛みが心窩部や右季肋部に。食後や夜間に多い。背部に放散し、悪心嘔吐を伴う。痛みが持続したら胆嚢炎を疑う。ビリルビンが上がることもあるが黄疸は少ない。Murphy signは有用。
・胆嚢や胆嚢管にある石が外から胆管を押しつぶすのが、Mirizzi症候群
・高齢者での診断は困難。意識障害、食欲低下だけのことも。診察所見やラボはあまりあてにならない。
・超音波は有用。ultrasonographic Murphy signを活用する。手の代わりにプローベを用いる。PPVは92%!
・超音波所見のNPVは95%。結構良い。
・hepatobiliary scintigraphyはテクネシウムでラベルしたiminodiacetic acidを使う。胆汁に排泄され、胆嚢を染めるかで見極める。感度特異度はそれぞれ80%、90%。偽陽性、偽陰性にご用心。偽陽性は、モルヒネでOddiの括約筋を締めてやると克服できるのだとか、、、、30分以内に染まれば偽陰性の可能性は0.5%。それより長くかかると偽陰性のリスクは増す。
・シンチの方が特異度が高いのだが、超音波の方がいろいろ便利なので頻用される。なんとアメリカの救急医も最近は超音波をやるのだそうだ。かつてはなかったことだが、ある意味日本化しているか。
・Tokyo criteriaが紹介されているが、CRPはアメリカではあまりやりません、と若干批判されています。

治療
・胆摘です。やるかやらないか、ではなく「いつ」やるかが問題。
・腹腔鏡下でも開腹でもOK.
・初期ならすぐオペ、待つなら抗菌薬絶食でじっと待って待期的にオペ。遅れると入院日数は増えて予後も良くない。
・合併症では胆管損傷が問題。
・腹腔鏡から開腹へのリスク因子は白血球が高いこと、症状の持続と高齢。
・スタディーの解釈は難しそう、、、、
・抗菌薬は用いる。腸球菌はカバーしなくても良いらしい、、、が。
・7日の治療と抗菌薬三回投与(cefamandole)だけで差がなかったというスタディー有り。Aust N Z J Surg 1990;60:539-

percutaneous cholecystostomy
・日本には海外では不整備なガイドラインがあるにもかかわらず、日本でよく用いられる方法。
・オペが出来ない、重症患者などで適応。

Tokyo guidelineの重症度 j Hepatobiliary Pancreat Surg 2007;14:1-, 2007;14:78-

mild grade 1. grade 2,3でないもの(!)
moderate grade 2. 以下のうち一つ以上
1.白血球18,000以上
2.マスを触れる
3. 72時間以上経っている
4.局所の炎症が強い。gangrenous cholecystitis, emphysematous cholecystitisなど

severe grade 3 以下のうち一つ以上
1. 心血管障害。ショックなど
2.神経学的障害。意識障害
3.呼吸障害
4.腎障害
5.肝障害
6.血液学的障害。血小板減少

『診療所における感染対策』セミナー@福井 2008.7

『診療所における感染対策』セミナー@福井(2008年7月12日予定)のまとめ

私は普段講演の時、ハンドアウトをお渡ししません。理由は以下の通りです。

1.エコのため。ハンドアウトは紙ゴミが増え、また多くの方は(必ずしも全てのかたではありませんが)二度とハンドアウトを目にすることはありません。
2.講演中は会場のみなさんとアイコンタクトを取り、良好なコミュニケーションを取りたいと願っています。ハンドアウトがあるとどうしても目線が下を向いてしまうように私には思えるのです。
3.ハンドアウトを渡してしまうと先の展開が読めてしまう。
4.3のために、ギャグがすべりやすい。
5.私の使っているプレゼンソフト(Keynote)ではハンドアウトが作りにくい。

 ギャグがすべるのは、単に面白くないからだ、という話もありますが、、、、

 とはいえ、「ハンドアウトがほしい」「ハンドアウトがないのはけしからん」「かもすぞ」とおっしゃる方もおいでです。そこで、ブログ上で講演の要旨を公開してこれに代えることにしました。講演をご覧になった方もそうでない方も、どうかご活用ください。
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診療所における感染症

・感染症の持つイメージとは?
・うつる、みえない、こわいなど
・イメージを脱し、実態を知るところから始めよう。

結核

・ボッティチェッリのビーナスの誕生。モデルは結核患者だった。やせて肌が白く、頬を赤く染め、目の周りがくぼんで大きく見える。
・結核は今でも多い。日本でも減少傾向だがその減少には歯止めがかかりつつある。先進国で比べると日本はまだまだ結核の多い国。
・ツ反の判定は要注意。基本的には硬結10mm以上で陽性。強い曝露があったり免疫抑制があれば5mm以上。ブースター効果を理解する。BCGはワクチンの名前。幼児期に1回だけ接種。QFTは健康な人の潜伏結核診断に有用。BCG関係なし。「疾患の」診断に役に立つかは、微妙。
・結核予防法は2005年に改定され、これは後に感染症法に取り込まれた。
・予防接種の簡素化
・再接種の廃止(2003年から前倒し実施)
・乳幼児期接種の強化
・生後3−6ヶ月までに
・事前にツ反はやらない
・潜伏感染の治療(化学予防)
・29歳以下に適応
・のちに、それ以外にも適応は広がる
・INHは9ヶ月。6ヶ月にあらず
・健康診断の効率化
・入学時のツ反廃止
・問診に基づいて健診
・検診をリスクを絞ってターゲット化
・定期外検診を強制的に

抗生物質とモラルハザードの問題

・46歳の男性。3日続く微熱、鼻水、鼻づまり、くしゃみで来院。診察上、鼻粘膜の肥厚以外特に所見なし。選択すべき抗菌薬は?

・抗菌薬は原則出さない
・例外的に必要なケースは?
・例外に引っ張られて、一般原則を捨ててはいけない
・例外を無視してもいけない
・感染症診療は、バランスが大事

使わない抗菌薬は
耐性を作らない

風邪を制する者、
気道感染症を制す

・3歳の女児。耳が痛いと来院。左鼓膜の発赤、水が溜まっている。微熱あり。全身状態良好。選択すべき抗菌薬は?

・オランダでは1990年から抗菌薬を原則として使用せず
・オランダでの耐性肺炎球菌の検出率は1998年で3%
・米国ではこれまで抗菌薬の投与を基本
・2004年の米国小児科学会のガイドラインでは抗菌薬の使用を制限する方針を初めて認めた
・基本方針 48〜72時間は対症療法のみによる経過観察
・耳漏があるとき 7日間は抗菌薬を投与せず,外耳道の洗浄や清拭などの処置のみで経過観察
・耳痛があるとき 鎮痛薬としてアセトアミノフェンの10〜15mg/kg/回の投与とする。2歳以上ではイブプロフェンの5mg/kg/回の投与も
・熱があるとき 急性中耳炎以外の重症細菌感染症の合併を常に考慮
・抗菌薬療法 経口抗菌薬の第一選択はアモキシシリン(以下,AMPC)とし,60mg/kg/日の5日間投与とする。抗菌薬が無効なとき 耳鼻科専門医と連携

使わない抗菌薬は
耐性を作らない

抗菌薬は患者の
利益のためにある
ばいきんを殺すこと
そのものが目的ではない

・40歳の女性。4日間の微熱、頭痛で来院。右のほほを押すと圧痛。鼻腔は腫れている。選択すべき抗菌薬は?

・大部分はウイルスが原因であり,膿性鼻汁がみられても10〜14日間は抗菌薬を使用しない。
・下記の条件の1つを満たすとき急性細菌性副鼻腔炎と診断し,抗菌薬投与を考慮する。
 症状や所見が10〜14日以上軽快することなく持続した場合(10day-mark)
 顔面の腫脹や疼痛が発現した場合
 上気道炎の経過中に高熱を伴って症状や所見が増悪する場合    

・抗菌薬を出すのなら、やはり、アモキシシリンです。
・増量した60〜90mg/kgではpenicillin-intermediate Streptococcus pneumoniae(PISP)や一部のpenicillin-resistant Streptococcus pneumoniae(PRSP)にも対応できる

使わない抗菌薬は
耐性を作らない

・20歳の男性。一昨日から咳と高熱。診察上有意な所見なし。レントゲン正常。血液検査では白血球とCRP軽度高値。2選択すべき抗菌薬は?

・大多数の急性気管支炎は、抗生物質を必要としない。
・マクロライドを塩胡椒代わりに使わない!

・マクロライドにご用心
・A群溶連菌の多くはマクロライド耐性
・急性咽頭炎には使いにくい!
・肺炎球菌の大多数にはマクロライド耐性
・肺炎に単独使用はNO NO
・マイコプラズマにまで耐性菌が。こどもはどうやって治療するの?

・18歳の女学生。5週間続く咳
選択すべき抗菌薬は?

・慢性の咳は原因様々。まずは原因検索を
・抗菌薬で治るものは、むしろまれ

Cough variant asthma(抗菌薬不要)
上気道炎ののこりかす(抗菌薬不要)
Postnasal drip(抗菌薬不要)
ACEI(抗菌薬不要)
喫煙(抗菌薬不要)
百日咳(これは、抗菌薬で治療することも)
肺ガン、COPDなどなど(まずは診断)
必ず、結核は除外する事

インフルエンザ

・飛沫感染
・ものや手などの接触でも
・手洗いの重要性
・待合室で流行らせてはいけない

・タイプA, B, Cがある。このうち疾患を起こすのはAとB
・現行のワクチンは、2種類のAと1つのB
・Aには複数のH抗原とN抗原
・Antigenic shift, antigenic drift 大流行の原因に
・BにはHとNがひとつずつ。Antigenic driftは起きる

・タミフルの問題点
症状を1日程度減らす役割
他の抗菌薬使用は減
耐性の問題
重症化を減らす訳ではない
鳥インフルエンザ用に備蓄が必要か

・ The UK National Institute for Clinical Excellence (NICE) の推奨
アマンタジンは使わない
リスクのない成人、小児には使わない
発症48時間以内にのみ、用いる
postexposure prophylaxis を流行時に(特にワクチン使っていない場合)

・インフルエンザワクチンを活用しよう。
原則としては1回投与でいい
初回のみ、1か月ごとに2回
ただし、13歳以下は2回、とうオプションもある
6か月以上が対象

・ワクチンの対象は?
65歳以上の高齢者
老人ホームなどの施設居住者
慢性呼吸器疾患、心疾患、腎疾患
糖尿病
免疫抑制
医療従事者
医師や看護師だけではない
長期アスピリン使用者(例、川崎病患者)
その他希望のあるもの

efficacy
見積もられたefficacyは77%
小児で80%
高齢者でおよそ50%

effectiveness
高齢者で、
インフルエンザ様症状は35%減る
肺炎などによる入院は47%
死亡率は50%

市中肺炎
・まずは重症度分類を CURB65はお奨め。
confusion (based on a specific mental test or disorientation to person, place, or time),
BUN level >7 mmol/L (20 mg/dL)
respiratory rate >30 breaths/min,
low blood pressure (systolic, <90 mm Hg; or diastolic, <60 mm Hg),
age <65 years
the 30-day mortality
0, 1, or 2 factors was 0.7%, 2.1%, and 9.2%, respectively.
3, 4, or 5 factors were 14.5%, 40%, and 57%, respectively.
0–1 be treated as outpatients
2 be admitted to the wards
>3 often required ICU care.
A simplified version (CRB-65), no BUN
・グラム染色を。肺炎球菌であればペニシリンを。

肺炎球菌ワクチンを!
他のワクチンも米国とは10−20年遅れ!Hib, Tdapも
・麻疹ワクチンも。麻疹って怖い?
肺炎の合併が年間4800例
脳炎は年間55例
死亡例は年間88例程度
・韓国では2006年に撲滅!

・ワクチンの接種法
原則、SCでもIMでもいい
AdjuvantがあればIMのみ
生ワクチンはSCのほうがいい(副作用が少ない)
小児には大腿外側を。他では三角筋を
お尻に打たないで!
SCは45度
IMは90度
Intradermalは15度くらい

同時接種は通常可能
麻疹や風疹ワクチンの前に免疫グロブリンは免疫原性を落とすと考えられている。黄熱病やポリオならOK

下痢

ノロウイルスとは
・以前はNorwalk-like viruses(NLVs)とか、small round structured viruses (SRSVs)と呼ばれていた。
・1970年代に発見
・電子顕微鏡は現場では使いにくく、そのままおざなりにされてしまっていた。
・1990年代にELISA, RT PCR作成
・世界中で報告。世界の下痢症で、最大の原因
・アウトブレイクも
・同じソースから、2人以上患者が出れば、アウトブレイク
・施設で2人以上下痢が出たら、アウトブレイクを疑え!

下痢のマネジメント
・下痢症の入院患者は何が原因であれ、接触感染予防
・アウトブレイクを見逃さない
・脱水をおこさない
・ものすごく吐いている場合は個室管理も考慮
・アルコール製剤は、だめ

STD
・どんなSTDがあるか?必ず意識にはとどめよう。
・HIVは増えている!

疥癬
・潜伏期間は1ヶ月
・見逃さないのが、大事。積極的に見つけるのが大事
・ノルウェー疥癬以外は恐ろしくない
・熱に弱く50℃、10分間で死滅する
・人間の体外では生き延びられない
・隔離は不要
・いずれの薬剤も頸部から下の全身に塗布する。ノルウェー疥癬では,頭頸部を含め全身に塗布する。(AIII)
・ステロイドは使用しない
・γBHCが治療薬。ただし、これは日本だけ。オイラックスも。
・ムトウハップなどいおう剤は使用しない
・治療は専門家が行った方がよい
・海外ならペルメトリンクリーム!これが安全
・イベルメクチンも

MRSA
・MRSAは怖い菌ではない
・強い菌でもない
・MRSA陽性は、病気ではない
・MRSAは空を飛ばない
・手洗いが、大事
・除菌は、意味がない
ただし、、、
ADLの低下した全介助患者,抗菌薬の長期投与例,低栄養状態の患者,褥瘡患者などは,MRSAの感染リスクが高い。したがって,これらのハイリスク患者とMRSA保菌者とを同室にしないように配慮する

基本は,手洗い,清潔動作の励行,部屋の清掃(AIII)
MRSA保菌者の隔離は行わない(CIII)
MRSA保菌者の除菌は強いて行う必要はない。また,MRSA陽性の入院患者が施設に移る前の除菌および入所時の保菌検査を勧告しない。(CIII)
施設における医療従事者の保菌検査は不必要(CIII)
可能であればMRSA保菌者をハイリスク患者と同室にしない。(BIII)

熱帯医学は九州だ!

旭中央病院の岩渕千太郎先生から以下のご案内をいただきました。長崎大熱研とIDATENのコラボです。魅力的ですね。ぜひみなさん、ご参加ください。長崎大学は元々熱帯医学の強いところで、有吉先生、古本先生両名もご活躍です(私も非常勤講師で毎年お世話になっています)。岩渕・大路の両名は感染症界では若手のトップを走る存在です。竹下先生は輸入感染症のエキスパートで私もいろいろ教えていただいています。乞うご期待。

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このたび、長崎大学熱帯医学研究所とIDATENのコラボレーションにより
熱帯医学の合同カンファレンスを行うこととなりました。
日時は2008年7月12日土曜日。
長崎大学熱帯医学研究所の有吉教授とロンドン大学熱帯病院
University College London Hospital, Hospital for Tropical Disease の
Dr.Tom Doherty の特別公演に加え、症例報告を元にしたDiscussionを予定しております。
参加費は一般のIDATENと同じく1000円を予定しております。
場所は福岡ですので是非、九州、中国地方からの御参加をお待ちしております。

詳細はIDATEN websiteをご覧ください。
http://www.theidaten.jp/infobox/casec_nettai2008.htm

長崎大学熱帯学研究所 古本 朗嗣
亀田総合病院 総合診療・感染症科 大路 剛
旭中央病院 感染症内科 岩渕 千太郎
国立国際医療センター戸山病院 国際疾病センター/渡航者健康管理室 竹下望

スペインワインはいつもおいしい

Portales tinto もともとスペインワインは好きですが、これは500円程度という超格安のワインです。でも、けっこういけます。

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