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肝機能の考え方

肝機能の解説をします。といってもここでは感染症に関連した肝機能の解説です。もちろん、あくまでも臨床的にアプローチします。

よくあるピットフォールその1
・肝機能異常=ウイルス性肝炎という誤謬
HBsAG(B型肝炎表面抗原)とHCV抗体だけを測って、
「B型肝炎、C型肝炎は否定的です」
「じゃ、どうして肝機能悪いの?」
「、、、、、」
というのはよくある話。そもそも、ウイルス性肝炎も、A型やE型(こっちは簡単に診断できないけど)もあるのだから、BとCで満足してはいけません。

 こっからは私のあくまで個人的な見解なのですが、日本の研修医の多くが上のような失敗をしてしまう遠因に、PBL、problem based learningの間違った運用があると思います。これはきちんと調べたわけではなく、あくまで私が見聞きしたり学生さんの話を聞いたうえでの憶測に過ぎませんが。
 日本のPBLは、形こそPBLというやり方を取っていますが、実際には問題解決型のアプローチを取っていないことがよくあります。問題文章中のキーワードから思いつくことを並べ立て、あとは検査の解釈ゲーム。「この検査が陽性だと○○病を示唆する」といった知識ばかりがついていきます。そしてそのうち、知らず知らずのうちに「この検査が陰性だと○○病は否定的」という隠喩が込められてきます。
「検査陽性だと○○病」「検査陰性だと○○病は否定的」という議論は日本の多くのケースカンファで語られるところです。検査前確率も感度特異度もまるで無視、です。さらに、このような議論形式で「検査陰性だと○○病は否定しました」ということで研修医が満足してしまい、「もう私の仕事は終わった」といわんばかりです。だから私に
「だったらいったい何なの?」とつっこまれるのです。
 これが本来のプロブレムに乗っかったアプローチのはずです。(典型的な)公務員・お役所との、「それについては通知を出しました」「でも問題は続いてんですけど」という不毛な会話を思い出させます。

 ウイルス性肝炎以外にも肝臓を悪くする病気はたくさんあります。自己免疫性肝炎、薬剤性肝炎、primary sclerosing cholangitis(PSC)、Primary biliary cirrhosis(PBC)、ウイルソン病などなど。いきなりそういう疾患群を全部検査する必要はありませんが、「ウイルス性肝炎否定的です、おしまい」になるのはよくありません。

よくあるピットフォールその2
・肝機能を悪くするのは「肝臓の病気」だけではありません。
 
 よく見逃されているのは、伝染性単核球症です。肝機能異常が目立ちますが、頚部リンパ節腫脹など、「肝疾患」では説明が付かない急性あるいは亜急性の疾患です。血液検査だけで熱をアプローチし、問診や診察をさぼっていると簡単に見逃してしまいます。
 伝染性単核球症をみたら、次のアプローチは「何が起こしているIMか」となります。多くはEBVですが、CMV、トキソプラズマなどさまざまな病原体が起こします。忘れていけないのはHIV。伝染性単核球症をみたら必ずHIV感染を鑑別に入れましょう。このとき行う試験は、EIAだけでなく、PCRが必要です。
 ときに、伝染性単核球症はとんでもなくLDHが高くなってびっくりすることがあります。私も昔、1000以上のLDHをみて「これはリンパ腫じゃないか」と心配になり、当時勤めていた診療所から大きな病院に紹介したことがあります。なんのことはない、EBVによる伝染性単核球症でした。
 あと、右心不全に伴う肝機能異常もよく見ます。
 感染症だと、レプトスピラ、マイコプラズマ、Q熱あたりがときどき肝機能異常を起こしますが、少しマニアックでしょうか。いきなり飛びつく必要はないでしょう。
 むしろ覚えておくべきは「敗血症」です。敗血症でときどき直接ビリルビン有意のビリルビン上昇を起こすことが知られています。臓器障害を伴う、いわゆる重症敗血症「severe sepsis」ですね。敗血症が治れば自然に下がってきます。敗血症によるビリルビン上昇と、薬剤(特に抗菌薬)によるビリルビン上昇の鑑別はときどき難しいです。敗血症がよくなって行くに従ってビリルビンが下がっていけば薬剤によるものは否定的でしょう。このように、「時間が解決してくれる鑑別診断」はよくあります。逆に、敗血症がよくなっているのにビリルビンはどんどん上昇していれば、これは薬剤を強く疑います。どっちか分からない場合は原因菌をカバーする異なる系統の抗菌薬に変更する、というのも選択肢かもしれません。ビリルビン上昇=胆管炎、胆嚢炎、というのもよくある誤謬です。ビリルビンが上がった発熱でも肺炎や尿路感染と言ったコモンな疾患は必ず鑑別に入れましょう。
 その胆管炎、胆嚢炎もよく勘違いされる疾患です。まず大切なのは、
 胆管炎と胆嚢炎は違う!
 ということです。もちろん、例外的な、胆嚢炎から続発する胆管炎(Mirizzi症候群)なんかもありますが、両者を明快に区別するのはきわめて重要です。
 なぜ両者を区別するのが大事かというと、呼ぶ医師が変わってくるのです。基本的に

 胆管炎は消化器内科の病気
 胆嚢炎は外科医の病気

 です。これが両者をもっとも端的に言い表した表現だと私は思います。
 胆管炎は総胆管閉塞を起こす疾患で、経皮、あるいは経消化管的なドレナージが必要です。内視鏡の得意な日本では内視鏡的胆道ドレナージ(ENBD,ERBD)の方が多いでしょうか。ドレナージさえしっかりしていればさくっと治ってしまう疾患です(悪性疾患がらみは手強いですが、、、、)
 胆嚢炎は、「胆嚢管cystic duct」の閉塞からおきる胆嚢内圧の上昇、炎症、そして(たぶん)感染症と展開する疾患で、治療の基本は胆嚢摘出術です。腹腔鏡あるいは開腹術となります。経皮胆嚢ドレナージはあくまでもオペができない人のための次善の手段であり、原則は手術が治療法。急性期にオペをしてしまうか、急性期が過ぎて胆嚢がぐずぐずになってしまえば抗菌薬で炎症が治まるまで待ってから手術で治療します。
 胆管炎は総胆管閉塞による、「胆道系酵素」の上昇がよく見られます。ビリルビン、LDH、γGTP、ALPなどです。しかし、胆嚢炎は原則総胆管は開いていますから、胆道系酵素異常は起きなくてもOKです。
「肝機能正常で、胆嚢炎、胆管炎は否定的です」
なんてプレゼンをする研修医は多いですが、ぶっぶーですよ。実のところ、胆嚢炎では肝機能がまったく正常な場合だって珍しくないのです。理由は考えてみてくださいね。
 むしろ、胆嚢炎の診断には問診、診察と画像の方が威力を発揮すると思います。その話は「画像編」でいたしましょう。

よくあるピットフォールその3
・肝機能正常で、肝臓は大丈夫です。
 実は肝硬変だったりします。肝硬変と「肝機能」は見ているところが違うのです。トランスアミラーゼ正常(あるいは低値)の肝硬変は珍しくありません。
 肝硬変の指標としては、身体所見(asterixisなど)、腹水の有無、アルブミン、凝固機能など、いわゆる血液検査の「肝機能」でないところも重要になってきます。血小板減少なんかも大事ですよね。肝機能だけが肝臓のマーカーではないことも注意してください。
 肝硬変をもつ患者の起こしやすい感染症って何でしょうか?感染症マニアはすかさず、
「Vibrio vulnificus感染」
 というでしょう。もちろん、それは大正解ですが、頻度的に多いのは、おそらくSBP、spontaneous bacterial peritonitisです。
 SBPは結構見逃されています。肝硬変があって腹水がたまっていて熱があれば、そうでないと分かるまではSBPです。臨床症状はパットせず、腹膜炎、という名前が付いている癖におなかは柔らかくて痛くもかゆくもない、というのが典型です。血液検査はぱっとしません。肝機能も正常のことが多い。腹水を取って、好中球(白血球にあらず)250以上を持って診断します。

よくあるピットフォールその4
・LDHが高くなる疾患だからといって肝疾患とは限らない
 感染症系で多いのは、PCPなど肺疾患です。他にも溶血性貧血、心筋梗塞や横紋筋融解症、リンパ腫や白血病なんかでも上昇します。LDHは肝臓、赤血球、筋肉、悪性腫瘍内に存在して、それらの破壊による上昇があるからです。伝染性単核球症でも上昇するのはすでに述べたとおり。ときどき、リンパ腫との区別が難しい伝染性単核球症が、あるいは一見伝染性単核球症に見えて実はリンパ腫だった、ということがあります。LDHのサブタイプがよく検査の教科書で解説されていますが、私自身はあの測定を必要としたことが、ほとんどありません。臨床的に判断できることがほとんどですし、分からないものはサブタイプを測ってもよく分からない、、、、、

最後に、間接ビリルビンの上昇。無症状であればGilbertが一番多いと思いますが、リファンピンで上がることがあります。梅毒治療でおつまみにつかうプロベネシドでも間接ビリルビンが上がることがあります。

参考
田中和豊 問題解決型救急初期検査 医学書院
Jaundice. In. Harrison's Principles of Internal Medicine 17th ed.

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コメント

用語の使い方の指摘をさせてください。
「肝機能」は文字通り肝臓の機能のことであり「肝予備能」と同義です。その血液検査での指標はICGテスト、血小板,PT,Albです(後3者はむろん他疾患でも異常値を示しますので総合的判断が必要ですが。)。AST,ALT,γ-GTP,ALPは「肝機能」の指標ではなく「肝障害」の指標です。

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