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武庫川女子大講演

 台風一過。昨日の東海での講演はキャンセルになりましたが、夕刻コンサルトが続出したので、けがの功名だったかもしれません。
 本日は夕刻より武庫川女子大で薬剤師さん相手に講演会です。ホストの森山賢治教授は島根医大11期卒で、私が学生時代にお世話になった第一解剖学教室のご出身です。学生時代はCELLの輪読会をごいっしょさせていただいたり、いろいろお世話になりました。

 さて、この講演会で薬剤師さんに伝えたいことは、簡単には以下のようなものです。

・抗菌薬にはたくさんの種類がある。一般名、商品名、略称などあり分かりづらい。
・抗菌薬の選択は菌=抗菌薬という1対1対応で考えられやすいが、実はそうではない。患者の性別、年齢、基礎疾患、アレルギー歴、今の症状、そして診療のゴールなど、さまざまな要素が複雑に絡み合って初めて抗菌薬が決定される。モニター上の培養結果と感受性試験の結果だけで抗菌薬を選んではいけない。ベッドサイドが重要である。
・TDMも患者のコンテクストが大事。バンコマイシンの血中濃度も絶対的な正解はなく、あくまでも患者の状態がそれを規定する。「正常範囲内」でも投与量を上げたり、「正常範囲以下」でもそのままにすることが多いのはそのためだ。
・米国では回診で薬剤師さんと一緒に患者をみる(こともある)。これが理想型。日本でも医師と薬剤師はもっと密なコミュニケーションを取らねばならない。
・日本は歴史的に感染症先進国だった。北里、志賀など偉人も多い。サルバルサンは歴史的な抗菌薬で1910年、エールリッヒと秦 佐八郎が開発しており、これはフレミングのペニシリン発見よりも何十年も早い。ちなみに秦の出身地も島根県(えっへん)。
・そのペニシリン発見後、臨床医学は劇的な、あまりに劇的な変貌を遂げる。「死の」病であった心内膜炎などの重症感染症が死なない病気になったのだ。ペニシリン以前の米国の医学生の手記では、自らが心内膜炎であると悟った彼が「私の余命はあと数ヶ月」とつぶやいた、と伝えている。ちょうど、1990年代のHAARTのようなインパクトか。
・当時ペニシリンはとても高価な薬で、貴重な「切り札」だった。
・幸か不幸か、日本では国民皆保険制度となり、ペニシリンは庶民でも使える抗菌薬に。感染症はあらかた治療されるようになる。出来高制なので医者はどんどん抗菌薬の適応を広げていく。製薬メーカーもそれに乗っかっていく。「死ぬ」病気をひっくり返すためだったペニシリンだが、「熱」に対してペニシリン、「のどいた」にペニシリン、「咳」「鼻水」「彼女に振られた」など、なんでもかんでもペニシリンを乱用するようになる。
・おおかたの感染症は不勉強な医師で対応できるようになり、1950−1960年代には、「感染症はもう終わった」といわれるようになる。臨床・研究両面で日本が遅れ出す時代である。
・が、その頃出てきたのが耐性菌。ペニシリン耐性の痳菌、ペニシリン耐性肺炎球菌が問題になり、MRSA、VRE、VRSA、MDRPなど百花繚乱の状態になる。
・米国では1960年代に米国感染症学会(IDSA)ができ、専門医養成の後期研修が行われるようになった。現在数千人の専門医が活躍している。しかし、日本で感染症の研修システムができたのは、なんと2007年まで待たねばならなかった。この遅れは甚大である。
・病院で感染症の専門家がおらず、各科の医師は「適当に」「なんとなく」抗菌薬を乱用する習慣が続き、日本の病院は耐性菌だらけである。また、患者の感染症も適切に治療されていない。この状態をひっくり返すことが急務になっている。

各論

・かぜには抗菌薬は不要

・中耳炎、副鼻腔炎も大多数は不要

・急性気管支炎も原則不要

・カルバペネムは切り札ではない。そう考えるとMRSA感染症やレジオネラを見逃すことになる。

・患者の正当な評価は大事。熱、CRP、白血球だけを見ていると失敗する。ベッドサイドが大事。CRP医者にはご用心。

・血液培養とグラム染色の上手な併用を。培養結果を治療すると「ばい菌を治療する」医者になってしまう。治療対象は患者です。無症候性細菌尿は原則治療不要。尿のカンジダも治療不要。喀痰培養のMRSAの大多数は実はMRSA肺炎ではない。

・抗菌薬はPKPDが大事。ペニシリンなどのβラクタム薬は大量頻回投与が基本。来月でるゾシンは最大4.5g4回投与だが、その成分のピペラシリンの最大投与量は4g。どうして????添付文書が間違っているからです。

・MICが低い抗菌薬が正しいとは限りません。MICの縦読みにご用心。

・抗菌薬は止めるタイミングも大事。CRPをあてにして抗菌薬をだらだら続けたり、逆に継続が必要なのに止めてしまってはダメ。よく、短期の使用が正しい、という言葉が一人歩きをしているが、抗菌薬の長期投与が必要になるケースも多い。キーワードで過度の一般化をする、「ワイドショー」的診療は御法度。

・人生と同じで抗菌薬の使い方の上手下手が如実に表れるのが、「熱が下がらないとき」の対応。最悪なのが、「明日から別の抗菌薬」「3日たっても熱が下がらないのでさらに別の抗菌薬」「やっぱりCRPが下がらないので明日からさらに別の抗菌薬」と抗菌薬の「一人サイクリング療法」を行うこと。

・抗菌薬が効かない、と思ったら、次にやるべきは「なぜじゃ?」と篤姫のように問いただし、考えること(ファンです)。頭痛に頭痛薬は下の下策です。それと同じですね。

講演会で紹介する、感染症の教科書です。他にもあるかもしれませんが。

・お奨めは、ハリソン。ここの感染症の項は本当に勉強になる。
・マンデルは非専門家にはあまり必要ない。
・サンフォードは必須。英語、日本語ありますよ。
・青木眞先生の「マニュアル」は、無人島に一冊だけ持って行け、と言われたら選ぶ一冊(もっとも無人島では役に立たんが、、、)
・最近でた、サークル図は傑作!
・私の本は、もちろん買って読んでね(せこい!)。

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コメント

今回の講演を拝聴いたしました。
学生の頃、感染症に興味を持ち勉強したいと思っていましたが、そのまま卒業してしまいました。
先生の講演であの頃の熱い思いが蘇り、地域の人々に情報提供できるよう勉強していこうと決意致しました。
ありがとうございます。

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