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2009年3月

簡単に書くのが難しい

「健康によい」とはどういうことか

EBMとNBMの本質から病の実在性まで、極めて分かりやすく書いた本。それゆえにすごい。こんなに簡単には普通、かけない。

がん哲学外来の話

こちらも平易な文章だが、がん診療にまつわる本質的な問題を明解にした本です。これもお奨めです。

長期療養施設での発熱ワークアップガイドライン

Clinical practice guideline for evaluation of fever and infection in older adult residents of long-term care facilities. 2008 update by the Infectious Diseases Society of America. CID 2009;48:149-71

ワークアップに特化したガイドラインで、まあ、あまりぱっとしません。治療のガイドラインはローカルファクターが強すぎて書けなかったのでしょうか、、、

・長期療養施設の住人は感染症のリスクにさらされている。高齢、数々の基礎疾患が問題である。
・このような住人では、重症感染症でも発熱は半分以下でしか見られない。
・急性期病院のように施設・インフラにも恵まれていない。
・今回は、2000年ガイドラインの改訂版。
・2030人には米国の20%が65歳以上に。3000万人以上が長期療養を必要とする。
・現状では、16000以上のナーシング・ホーム(かそれに準ずる施設)があり、住民数は150万人。
・ナース主体で、地域のプライベート・ドクターが支援している。
・多いのは、尿路感染、肺炎、軟部組織感染症、胃腸炎、異物関連感染。
・肺炎、尿路感染はだいたい1/1000・日。肺炎は市中の10倍
・耐性菌も多い。
・症状は分かりにくい。意識障害や「いつもと違う」も大事。発熱は、ベースラインからの逸脱や持続する微熱も発熱と認識する。
・ナース・アシスタント(CNA)は問題点を最初認識する人物であるが、研究によると間違って認識することも多い。
・ワークアップは、バイタルサインをチェックし(呼吸数含む)、水バランス、意識状態、口腔内/咽頭、結膜、皮膚(陰部なども含む)、胸腹部、異物。
・検査は可能なら、検査。
・CBCはやろう(根拠は?)
・尿検、尿培養も。症状なければOK。
・血液検査はルーチンではすすめられない。あきらかに菌血症を疑えば、やる(やってはいけない、と言う意味ではない)。
・肺炎を疑ったら適宜酸素飽和度とレントゲンを考慮
・ウイルス感染を疑ったら、気道をワークアップ。
・SSTIでのスワブはやらない。骨髄炎を疑ったらMRIがベター、骨生検がベスト。
・他にもいろいろ検査の推奨はあるが、常識範囲内。
・7日以内の下痢は、ワークアップ不要。水の管理のみ。
・重症の発熱を伴う腸炎であれば偽膜性腸炎を考えワークアップ。やはり腸炎で、抗菌薬曝露がないとかCDトキシン陰性なら、便培養を考える。

往復にて

東京で慢性期医療における感染症の話をしました。往復中に読んだ本。

レヴィナス

生殖の哲学

 両方、同著者による本。

 現状の価値観に異議を唱え、価値の揺さぶりを試みる部分は面白いと思いました。何かが正当性を決めつけて管理するのはおかしい、という意見も説得力がありました。が、あまりにもルサンチマンが強すぎて議論が飛んでいるなあ、とも思いました。権力、差別、体制側といった使い古された(手垢のついた)ことばへのルサンチマンが議論を雑にしているかな。
 生物、生命、死といった概念についても「正しい」「正しくない」「間違っている」「許せない」という恣意的なキーワードでばっさりやっているので、議論もそこで止まっている。結局、価値を決めつけるのはおかしい、と主張している一方で別の価値観の決めつけが行われてしまっている。
 根源的に突き詰めて謎解きにとりかかった、というより「俺の主張」が先にあって、その後付的な議論がされているからなのでしょうか。ちょっと点が辛いですが、それは僕が価値判断の相対化にこだわっているせいで、断定的な議論に苦手意識を持っているせいかもしれません。読者が本を作ってしまう部分はありますね。

レヴィナスと愛の現象学を読む

これは突き動かされ、魂を揺り動かされる本でした。

哲学本の解説書では、よく「いやいや、この人はそんなことは言っていない」という引用元の真意の正当性、「正しさ」が論争の元となります。ニーチェはこんなこといってない、サルトルはそんなことは考えていない、フッサールの真意はそこにはない、、、、みたいな。こうした正しさ論争は、本人なしでやってもいつまで経っても解決しませんし、たぶん、例え本人が目の前にいても解決しないでしょう。「俺はそんなつもりで書いたんじゃない」とたとえ本人が主張したとしても、それが正当な言説であるかは証明しようがないからです。

というわけで、ある哲学者や哲学書の解説本や解釈本は、その本の内容そのものを読み込んで吟味した方がよっぽど理にかなっていると思います。「この本は正しく○○を説明しているか」ではなく、この本がいっているこれ、これがこころをえぐって価値を揺さぶるのか、、、、そういう意味では本書はものすごくえぐりました。現象学を「お勉強」の対象とせず、自らの問題として突き詰めていく、という態度も納得しました。だから、現象学的態度を取ってもフッサールに納得しない、というレヴィナスの言説もあり、なのだと。

倫理という語り得ないものを議論するとき、倫理性と主体性は「私はあなたより先に、あなた以上に有責である」という宣言によってはじめて基礎づけられる、という一文が倫理を非常にリアリティのある具体的な概念に仕立て上げます。そして、その宣言をするのは私一人、ただひとりなのだと。

目標や目的には意味がない

駆け込みで来年度の書類を作っています。4年生、5年生、6年生、初期研修、後期研修とそれぞれ一般目標だの、個別目標だのをたてるのですが、なんとも時間の無駄遣いです。

例えば、目標にはこんなことが書いてあります。

輸液の意味を十分に理解する。

あるいは、

緩和医療を定義できる。

こんな難しい命題、誰にも分からないし、第一学生がそれを達成できたのか、検証することも不可能です。「できていない」ことは検証できますが。

このようなオールマイティーな言葉は、何も言っていないのと同じなので、要するに第三者がのぞきに来たときに、「私は一所懸命書類を書きましたよ」というがんばりを証明するアリバイ作りにしかなっていません。がんばりそのものが評価の対象になるのは、アマチュアリズムに毒されているからです。そして、そんな空しいものだけが評価の対象になっている空しい作業をやっている指導医に教えてもらっている教え子が、正当に評価されるのでしょうか。そんなわけ、ない。少なくともプロはそんな無意味なことは、頼みにしない。

医師や医学生のめざすところは、到底到達できないところを、到達できないと知りつつめざし、かつそのことでニヒリズムに陥らず、適度にがんばり、適度に休み、適度に勉強し、適度に頭でっかちにならず、適度に患者さんに尽くし、でも患者さんや自分に溺れず、今の自分に満足せず、でも今の自分に絶望もせず、愛する人を大事にし、愛する人の方が患者さんよりも大切な存在である、という当たり前の事実を自覚しつつ、それでも患者中心の医療、というスローガンの「本当に」意味するところを認識し、偽善を憎み、でも偽善フリーはほぼありえないというかそれをいうのが一番偽善的と自覚し、大嘘つきにはならないが、ほどよく心のこもったウソをつき、他人の長所を手本とし、しかし醜い嫉妬心を起こさず、他人の短所は他山の石とし、しかしやはり愚かな優越の劣情を覚えず、理性を重んじ、同時に理性などというファンタジーを過信せず、正しい道を貫かんとしつつ、正しさってなあに?と首をかしげてこつこつ、うじうじ、どうにかこうにかがんばっていくこと。くらいでしょうか。こんなこと書類に書いても誰も許してくれませんが。

要するに何が言いたいかというと、年末の書類仕事がいやだな、ということでした。

ガイドライン地獄

最近、ガイドラインが多すぎて追っかけられません。

http://www.idsociety.org/content.aspx?id=9200#cand

カンジダのガイドライン。サマリーだけ読んで、とくに行動変容も起きなそうでした。でも、for 2 weeks after documented clearance of Candida from the blood-streamと書いてあってほっとしました(最後の陽性から数えて、、、って言葉的に変だと思っていたし)。あと、reasonable, attractiveという恣意性を込めた形容詞が多く使われていたのが印象的で、好感を持ちました。書き手のメッセージがはっきりしているガイドラインは、良いガイドラインの可能性が高いと思います。

http://www.journals.uchicago.edu/doi/full/10.1086/598513

インフルエンザのガイドライン、さらさらさらーーっと、たぶんl、行動変容はないな、と決めつけました。また機会があれば、読もう。

http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr58e324a1.htm

OIガイドライン。サイトメガロのところだけ、さらさらっと流し読み。欲しい情報については明記なし(IRISのステロイド量と、ガンシクロビルの副作用対策)。分からないものは、いつも分からないことが多いです。こういう部分はあまり気にしないのが健全な態度かと。

あとは偉大なるSax先生の仰せのママに、、、ついにCPEという呼称になったか、、、、これもやっかいです。

http://blogs.jwatch.org/hiv-id-observations/

Saint−Frances Guide

今年度はやっつけ仕事だった学生教育ですが、来年度(来週)からは本腰を入れてやらなければ。GIOやSBOとか計画書に書かされるのですが、こういうお題目が役に立った試しはないです。研修医のEPOCも全然役に立たないので、神戸大では廃止したい、と提案しているところです。

では、どんなものが役に立つかというと、例えばこんな本です。Saint-Francesの学生実習用の教科書で、入院外来用があります。とてもいいことがたくさん書いてある。

Clinical medicine is not about how much you know. Instead, it is about
1. Methodically applying what you ko know;
2. Recognizing when you do not know; and
3. Knowing how to find the knowledge you need.

Recognize that human interactions are complex. Expect complexity.

Tacit knowledge may limit the ability of your superiors to teach you. Tacit knowledge means knowing how to perform a task but not remembering how you learned it. Once a skill has become tacit, it is difficult to teach it to students. This is why experts in a topic can be the worst teachers and why some of your best attendings may find it hard to explain to you how they do the great things they do. This book provides insight into what has made your great role models great.

We are what we repeatedly do. Excellence then is not an act, but a habit.

Medicine requires teamwork. Each team member has a role. Roles are ultimately established by the team.

文章もとても美しいですね。

移動中に

青木洋介先生に招かれ、佐賀に来ています。

昔は「対談」というジャンルをあまり好ましく思っていませんでした。仲良し意見の合う同士がしゃんしゃんで話し合ってもなあ、と思っていたのです。しかし、ダイアログの中には書き言葉にはない面白みがあること、感染症近代史を調べる上で、過去の学術誌の対談が意外に役に立つことなど、最近はすっかり対談を見直しています。読みやすいしね。

翻訳夜話2 サリンジャー戦記

前作の翻訳夜話は、何年も前に一所懸命に読みました。今回はそのときほどの感動は得られなかったですが、村上春樹の翻訳に対する心掛けやこだわりは伝わります。柴田元幸のCall me Holdenがとても面白かったのが、お得感を増しています。

身体知

内田樹と三砂ちづるの対談本。従来の価値の揺さぶりという意味では面白かったが、お互いが言いたいことを言い合っているので対談としてはやや噛み合っていないかも。

健全な肉体に狂気は宿る

私の好きな春日武彦と内田樹の対談。が、ゆえにすでに知っている内容が多すぎて、得られる新情報はなかったのが、皮肉。

感染性心内膜炎のすべて

すべて、という大胆なタイトルですが。島根大学の田邊教授たちの企画です。私もたくさん書きましたが、筆が滑って重要なミスを一つ犯してしまいました。それが何かは、読んで見つけてみてください。

world TB day

3月24日は世界結核デーで、これは1882年のこの日、ロベルトコッホが結核菌を発見した逸話に基づいているそうです。

ランセットのpodcastがこの日の特集をしています。

http://www.thelancet.com/laninf-audio-2009

MGHケース

これも難しかったです。病名に引っ張られてしまいました。眼に「あれ」がなくても、、、教科書にはちゃんと書いてあるのでした。

嫌い自治???

もちろん、表題は冗談(だじゃれ)です。この話をしたかっただけ。

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(09)60486-4/fulltext

この号は、パレスチナ・イスラエル問題を表面から扱っていて、さすがにランセットは重厚な医学誌だと感銘を受けました。次号ではたくさん反響も出ていました。日本の医学雑誌でcontroversialな問題に正面から対峙しているものをほとんどみず、なあなあ、しゃんしゃんでやっているのとはえらい違いです。ランセットの価値は、インパクトファクター以外の所にもあると思います。

あと、むずかしいケースを一つ。これも診断、思いつきませんでした。
http://www.bmj.com/cgi/content/extract/338/mar09_1/b247

緑の、、、

緑の黒髪、という面白い表現が日本にはありますが、これは異なる部分が緑色

最近、大船中央病院の須藤先生の影響から爪の大好きなドクターが急増中ですが、これもレパートリーの一つになりますでしょうか。

亀田Jクラブ

J Am Coll Cardiol. 2009 Feb 3;53(5):436-44. 
19179202

TEE断られてもCTならできる日本では有用でしょうか。CTで診断するIEの話。

Clin Infect Dis. 2009 Jan 1;48(1):65-71.
  PMID: 19046065

ブドウ球菌の心内膜炎にアミノグリコシドは必要?という古くて新しい問題。take home messageはアミノグリコシドのクレアチニン−クリアランス低下は、1日0.5%。覚えやすい。

MGHのケース、、、

26歳女性の7週間の頭痛、行動変容、けいれんなど、、、そして徐脈

これは難しかったです。分からなかった、、、勉強になりました。

日本語が亡びるとき

結論から言うと、これは本当に名著だと思います。ただし、不遜な言い方を覚悟を決めていってしてしまうと、これを読んでもその意味するところを理解する読者は少数派でしょう。amazonでも辛い批評が多いですが、それはある意味当然のように思いました。

水村美苗さんは、日本語と英語、日本語と外国語、日本文学について突き詰めて考えつめた方です。そのような追体験なしに本書を読んでも問題意識は共有できないでしょうし、単にテクニカルに言語学やその周辺を研究している「プロ」であれば、なおのこと分からないでしょう。ちょうど、医者の多くが「病気とは何か」と突き詰めて考えたことがない故に、表層的な病気の認識しかしていないのと同じように。

多くの読者は、おそらくは本書を通俗的な懐古主義、「昔は良かった」的なエッセイとしか読まないでしょう。「ここは日本だ、アメリカじゃない」という狭量な日本唯一単独主義者にも嫌悪されるでしょう。

逆に、ここまで突き詰めた、日本語と英語、外国語、文学について突き詰めた、そういう追体験があると、本書の一文一文は魂の奥底まで突き刺さるような驚異的な文章の集まりになります。

もっとも、私個人は日本語や日本文学には絶望していません。水村さんは教育を形成する日本政府が危機感がなく、勇気がなく、頭が悪く、無策であり、学校教育における国語が絶望的な状況にあると嘆きます。私もまったく同感で、彼らは危機感を欠き、勇気がなく、頭も悪く、無策です。

でも、国語教育が日本語や文学の質を担保するわけではないと私は感じています。彼らを頼りにしない、という覚悟を決めれば、まだ日本語は亡びない可能性をもっていると。それを守るのは私自身、自分自身なのだと。

自分の感受性くらい
自分で守れ
ばかものよ

茨木のり子の言葉をこんな時に思い出すのでした。もちろん、この話は文学だけには留まらないのですが、、、、、

最近読んだ本から、、、

緩和のこころ

前々から疑問に思っていた精神科系疾患の病名と見立ての問題にクリアに答えた本。今抱えている病気のとらえ方を見つめ直す意味でもよい頭の整理になりました。うつ状態という症状概念とうつ病という疾患概念は異なる、というような部分が明記され、がんになったときや災害にあったときに様々な症状が出るのは「異常状況における正常反応」で決して病気ではない、という考えも納得がいきます。

良心の領界

静かで力強いスーザン・ソンタグの言葉がたくさん聞ける本。孤独と連帯の関係についてのコメントがとくに印象深かったです。連帯、なんて私たちの世代には遠い遠い言葉ですが。

手にとるように哲学がわかる本

難しいことを簡単に書くのは本当に難事で、その内面をよくよく咀嚼していないとできない芸当です。そういうことをいとも簡単に(と外野からは思える)やってしまうのが甲田さんや池田清彦さんたち天才なのでしょう。

IDATENウインターセミナー

気がつくと3月ももうすぐ下旬。今年度もおしまいです。

恒例のIDATENウインターセミナーが神戸大で行われています。本日は最終日。毎年レベルアップしているように思いますが、今回はとくにインストラクターのレクチャーの質の高さに驚く毎日でした。

今回は、神戸大の学生さんとうちの事務局は本当に前々から細かい準備を重ねてきました。会場や宿の確保、懇親会のセッティングや観光ツアーの準備、コーヒーメーカーやゴミ箱の設置など、細々したところに目配り、気配りの届いた素晴らしい準備だったと思います。その間、私はぼーっとコーヒーを飲みながら傍観しているだけで全く役立たずでした。準備に奔走してくださった皆さんにはこころから感謝しています。

また、毎回忙しい診療の合間にこのような質の高い感染症セミナーを準備してくださった音羽病院の大野博司先生と、静岡がんセンターの大曲貴夫先生たちIDATENのメンバーの皆さんにも感謝感謝です。セミナーに参加して感染症の面白さが分かった、感染症ファンになった、という人も多く、目を輝かせ、息を弾ませて感染症の面白さや難しさを語ってくださる参加者の顔を見るにつけ、このようなセミナーの意義深さを感じたのでした。

本日は最終日、今日も朝からぼーっとみんなの活躍を傍観しています(結局最後まで役立たず)。

Case records of the MGH

今週から、NEJMのMGHケースカンファレンスを使って勉強会をすることにしました。一人が原稿を読んできて、病歴の部分をプレゼンします。ここで、鑑別疾患を挙げて、種明かし、という流れでやります。30分程度のコンパクトなやり方で、特にスライドとかも用意させません。病理所見もざっくりいきます。簡単に継続できることを目的にしています。まあ、他院でも同様の企画はあると聞きますから、うちのオリジナルではもちろん、ありません。

今回のお題は、26歳男性既往歴なし、の右目の視力低下でした。

http://content.nejm.org/cgi/content/extract/359/26/2825

病歴から急性疾患、慢性疾患、突然発症の疾患と分け、病歴・身体所見から解剖学的なアプローチをしていき、鑑別疾患を挙げていけば診断までの道筋はそれほど困難ではありません。が、うちの研修医達はこれがまったくできていないことが明らかになりました。みんな、文脈を無視して「思いつきで」鑑別を挙げているのです。普段からこういうアプローチをしていて、そして鑑別が思いつかないと手も足も出ないから、「とりあえず検査」となるのでしょう。

このセッティング、この医療環境では、このような教材の活用は思いの外教育効果の高いことに、少し驚きました。これ、学生・研修医向けのレクチャーでも取り入れてみようかな。

ハリソン再評価

週一回で、ハリソンの感染症の部分を一章読んでいます。これが存外面白い。

アメリカでも日本でも、ハリソンをくさす人はいます。医学知識の進歩がこれだけスピーディーになって、数年のタイムラグがある印刷された媒介である「本」というものに見切りを付けた発言かもしれません。ところがどっこい、多くの本がそうであるように、医学書もまた印刷媒介は必ずしも「無駄」ではないようです。

ハリソンのすばらしさは情報の新しさ、というよりも問題のエッセンスのまとめ方のうまさかと思います。特に素晴らしいのは洗練されたテーブルで、複雑に見える問題のポイントを上手に浮き彫りにして、概念をまとめ上げています。疾患概念の把握が弱い研修医は多く、キーワードばかりがでてくるのです。国家試験では満点が取れるのですが、患者ケアができないのです。ハリソンを読んでいると、今まで捉えていた疾患の概念を編み直して、よりすっきりした形で頭にしまい直す、という作業ができるのです。

HIVケアにはお金がかかる、、、

ペルーで研修を受けたのは1999年でした。すでに3剤によるHAARTが「常識」になっていた時代でした。ところがペルー随一のHIVクリニックではAZT単剤療法がある患者に行われていて、私はとても驚きました。
「分かっているよ。でもね、この患者さんは3剤分払うお金がないんだ。まるで治療なしより、ましとは思わないかい」

HIV診療にはお金がかかります。多くの国ではこの疾患の重要性を考えて通常の医療保険プラスアルファの経済的な補助を与えています。しかし、経済的打撃の大きな米国ではそれが崩れそうになっているようです。

http://blogs.jwatch.org/hiv-id-observations/index.php/2009/03/10/unwelcome-visitor-cost-of-hiv-meds/

かつてのペルーのように、お金のために1剤治療も現実のものとなっているようです。日本だって、ぼおっとしていると例外では、、、

以下、スーザン・ソンタグ「良心の領界」(NTT出版)より

人の生き方はその人の心の傾注がいかに形成され、また歪められてきたかの軌跡です。注意力の形成は教育の、また文化そのもののまごうかたなきあらわれです。人は常に成長します。注意力を増大させ高めるものは、人が異質なものごとに対して示す礼節です。新しい刺激を受けとめることl、挑戦を受けることに一生懸命になってください。
(中略)
本をたくさん読んでください。本には何か大きなもの、喚起を呼び起こすもの、あるいは自分を深めてくれるものが詰まっています。その期待を持続すること。二度読む価値のない本は、読む価値がありません(ちなみに、これは映画についても言えることです)。
(中略)
動き回ってください。旅をすること。しばらくのあいだ、よその国に住むこと。けっして旅することをやめないこと。もしはるか遠くまで行くことができないなら、その場合は、自分自身を脱却できる場所により深く入り込んでいくこと。時間は消えていくものだとしても、場所はいつでもそこにあります。場所が時間の埋め合わせをしてくれます。たとえば、庭は、過去はもはや重荷ではないという感情を呼び覚ませてくれます。
(中略)
恐れないことは難しいことです。ならば、いまよりは恐れを軽減すること。
(以下略)

雨月物語

これも移動中にipodで観ました。溝口権二監督の作品を見るのは実は初めてです。

映像の美しさや優雅さは素晴らしい映画でしたが、どうもこちらの受容体に問題があったのか、あまり感銘を受けませんでした。能を応用した映像は西洋人には受けるでしょうが。

ひとつは、人間の金銭欲・名誉欲・出世欲を戒めているというテーマがあまりに通俗的だったこと。時代が時代ならばはっとさせるテーマだったかも知れませんが、今の世の中のあり方で観ると、「そんなの当たり前じゃない」という感じもしないでもありません。

次に、台詞に工夫があまりなかったこと。とても説明的で、くどい印象を受けました。

最後に、これはこの時代の日本映画の演出方法の特徴のように思いますが、演技が過剰なこと。初期の黒澤映画などでも見られますが、出演者の感情の起伏が激しすぎてちょっと観ていて引いてしまいます。逆に、今の日本人の感情量が当時に比べて減ってしまっているせいなのかも知れませんね。

アンナ・カレーニナ

アンナ・カレーニナを読了しました。ぐいぐいと引きつけられる文章で、気がつくとページが進んでおり、思いの外早く読み終えました。学生時代に「戦争と平和」を読んだことがありましたが、あのときは「読んだ」という結果しか残らず、ほとんど感銘を受けることがありませんでした。両作品の違いよりも自身の受容のあり方の変化なのだと思います。今という大切な時間にこの作品に出会えて本当によかったです。

早稲田大学に

早稲田大学に行ってきました。西條剛央さん、池田清彦先生達と哲学や構造構成主義についての発表や議論がありました。私は素人なのでひたすら勉強でしたが、とても楽しかったです。自分の論考についてもいろいろと貴重なコメントをいただきました。ありがとうございました。

甲田烈さんのことは恥ずかしながら存じ上げなかったのですが、、、、ええ?、、同い年なんだ。久しぶりに天才に会ってしまいました。すごいです。プレゼンテーションやコメントがこんなに筋道たっている人って希有ですね。

空気を求めて

過日、倉敷中央病院に行ってきました。発熱患者さんへのアプローチについてお話ししました。

福岡敏雄先生にERとICUを見学させていただいたのですが、入ったとたんにぴりりとした空気を感じました。活き活きとした、臨床医療の躍動感が感じられる空気でした。お話ししたときも研修医の顔が輝いていて、医者やってて楽しい、という感じが伝わってきました。久しく忘れていた空気でもありました。

病院を見学するとき、どうしても部屋の構造や患者の数、手術件数などに目が行きがちになりますが、このようなクオリアというか、感触的なものがその医療機関を一番よく表現していることがあると思います。ワインの味をアルコール度数や糖度で評価できないのと同じでしょうか。

倉敷の皆様、どうもありがとうございました。

マンガネタ

PLUTOの7巻、そしてジョジョの奇妙な冒険Steel Ball Run 17巻を続けて読みました。圧巻です。どちらも面白すぎ。

乱読のなかで

GHQサムス准将の改革

 戦後の日本の医療制度改革を行ったサムス准将の自伝的書物。戦後間もない日本の医療情勢とその対応、現在の日本の医療システムの基本は全て(に近く)この時期に作られたのだ、と感じられます。栄養問題や感染症対策、医学教育などその守備範囲はとても幅広いものでした。碧素では国産ペニシリンは高く賛辞されていましたが、この本では「効果薄し」と一刀両断されていました。歴史の見方は各人各様、ということでしょう。

社会学の名著30冊

 これは衝動買いしたもの。30冊を一気に紹介しています。マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」、上野千鶴子の「家父長制と資本制」の解説が分かりやすく、また面白かったです。ブルデュー・ヴァカンの「リフレクシヴ・ソシオロジーへの招待」は、歯切れがいいです。例えば、学問界特有の厳格な実証主義者については、

強いられたことを自分の長所に変えることによって、科学的大胆さのどんな形式にも反対し、実証主義的厳格さという小心な慎重さに常に高い価値を与えるような負け惜しみ的科学観

あと、こんな引用も

全体的イデオロギー概念を普遍的に把握するようになるためには、敵の立場だけではなく、原理上いっさいの立場を、すなわち自己自身の立場さえ、イデオロギーと見なす勇気がなければならない。

おっしゃるとおりで、、、、

イワタ50号

K病院感染症屋さんたちは歴史オタクが多く、以下の本を薦められました。

碧素 日本ペニシリン物語

すでに絶版になっていますが、amazonでは中古で購入できます。中古本ってとても便利だと最近知りました。古本屋さんとリンクしているんですね。

さて、ドイツ占領下のフランスが天井桟敷の人々を作ったのもすごいですが、太平洋戦争中の日本が独自にペニシリンを実用化させていた、というお話です。なるほど、歴史好きな感染症屋ならどきどきするようなエピソードですね。ドイツの論文が潜水艦に載ってやってきた下りなど、映画の一場面のようです。

青カビから作ったペニシリンだから和名が碧素です。で、コント55号ならぬイワタ50号とは何かというと、これは本書を読めば、分かります。

2月も終わりました

へとへとになりながら、なんとか2月が終わりました。この週末も集中治療学会のICD講習会があったり、内科セミナーがあったりと、濃密な日々でした。

その合間を縫って、移動中にipod touchで観たのが「天井桟敷の人々」。10代のころにビデオで観たときは何が面白いのかまったく理解できず、ただただ「観た」という実績作りのために3時間を耐えた映画です。今観ると、ものすごく面白い映画で、胸に迫ってくるものがあります。長い映画なのに、ラストシーンまでうまーくつないでいます。まあ、でも10代でこの映画を理解できるわけはないですね、、、、

次に読んだのが内田樹の「先生はえらい」。中高生向けに書かれたというこの本ですが、私が中高生の時だったら、たぶん難しくてよく分からないだろうな、という感じでした。とても面白くて一気に読み終えました。

以下、とくに心に響いた部分

技術には無限の段階があり、完璧な技術というものに人間は達することができない。このことはどんな道でも、プロなら必ず初心者に教えるはずのことです。どんな領域であれ、「この道を甘くみちゃだめだよ」というのがプロが初心者に告げる第一声です。そういわなかったら、その人はプロではありません。

人間はほんとうに重要なことについては、ほとんど必ず原因と結果を取り違える。

私たちが会話においていちばんうれしく感じるのは、「もっと話を聞かせて。あなたのことが知りたいから」という促しです。でも、これって要するに、「あなたが何を言っているのか、まだよくわからない」ということでしょう?

文章を先へと進める力は、ことばが思いを満たさないという事実だ

漱石の「先生」の条件
1.なんだかよくわからない人であること
2.ある種の満たされなさに、取り憑かれた人であること

コミュニケーションは誤解の余地を残して構造化されている。

ラカンのことば
自身の問いに答えを出すのは弟子自身の仕事です。師は「説教壇の上から」出来合いの学問を教えるのではありません。師は、弟子が答えを見いだす正にその時に答えを与えます。

で、とても面白い本だったので関連して「レヴィナス入門」という本を読みましたが、こちらは私には凡庸な内容に思われてどうもだめでした。レヴィナスがだめというより解説のあり方の問題だったのかもしれません。単に私というレセプターの問題なのかもしれません。

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