重症化の予防と声高に主張するのはなぜ?
季節性インフルエンザワクチンが他人への感染性を減らした り、集団感染予防に役立つだろうことを「示唆する」 論文は多々あります。インフルエンザワクチンのherd immunityはあると考えた方が妥当で、たとえば院内感染 予防においてもそれは期待できます。CDCのガイドラインにもそれは明記されています。最近では、米国は医療従事者が新型ワクチンを打つのは「患者の蔓延を守るため」と明記しておりこれが義務とするよう働き掛けているくらいです。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/200701/502204.html
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15694506
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17008123?ordinalpos=1itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_SingleItemSupl.Pubmed_Discovery_RA&linkpos=4&log$=relatedreviews&logdbfrom=pubmed
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18820568?ordinalpos=1&itool=EntrezSystem2.PEntrez.Pubmed.Pubmed_ResultsPanel.Pubmed_SingleItemSupl.Pubmed_Discovery_RA&linkpos=3&log$=relatedarticles&logdbfrom=pubmed
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5502a1.htm
新型についても、最近こういう論文も出ています。
http://www.annals.org/content/early/2009/1/05/0003-4819-151-12-200912150-00157.long
もちろん、「エビデンス」には乏しい、という批判はあるかもしれません。しかし、それをいうなら、政府の言う「重症化を防ぐ」なんてエビデンスは皆無です。それを「示唆する」臨床データすら存在しません。
よく、日本では前橋スタディーが取りざたされます。僕も昔原文を読んだことがありますが、当時はともかく現在では方法論的に問題ありありで、政治的な意図がなければこれ(だけ)を根拠に集団免疫を否定することはできません。
政府が「重症化を防ぐ目的で」と主張するのは、賛成はしませんが一定の理解はします。これは「意見」ですから、たとえ自分と異なる見解であろうと、尊重はしたい。でも、最近、そうではなくて厚労省官僚でも「重症化を防ぐだけで、感染予防には役に立ちません。蔓延も防ぎません」と「うそ」を言うことがあります。うそをつくことは、絶対に許容できません。た だ間違えているのか、わざとやっているのかはわかりませんが。
ところで、ではなぜ政府はこんなに躍起になって「重症化を防ぐため」と強調しなければならないのか、という疑問が湧いてきます。それについて、私は仮説こそ持っていますが、証明する回答を厚労省やその他から得ていません。でも、もしそれが本当だとしたら、それはとてもとても僕たちにとっては腹立たしい理由ではないかと思います。
ついでに、財務省について。財務省のニュースはほぼ皆無ですが、新型インフルエンザ対策の意思決定にかなり強い影響力を持っているようです。厚労省の方とお話しすると、二言目には、「でも財務省がなあ、、、」といわれます。財務省がどのような見解を持っており、どのくらい意思決定に関与しているのか、国民は知る権利があります。当然あります。
ACIP の決定は財務から完全に独立しており、そのミッション「ワクチンで予防できる病気はとことん予防する」を達成するのに障害がないよう配慮されています。今みたいに財務省が暗躍する日本の構造では、せっかくACIP日本版を作っても絵に描いた餅になる、似て非なるものになってしまう可能性が高いでしょう。
厚労省官僚は感染症、新型インフルエンザの素人です(経験、知識共に)。その素人が、さらに輪をかけて素人な財務省官僚に牛耳られているとしたら、こんなに腹立たしいことはないでしょう。僕の見解が間違いなら、誰かきちんと訂正して欲しいですけど。
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家庭でも国家でも 「先立つもの」が必要なことは変わりありません。そこには自ずから優先順位が付けられます。優先順位は日本の場合(過去)基本は財務省(大蔵省)がつけ、その中で政治家や官僚OB、業界の圧力などの力学が働いて 魑魅魍魎の中でなんとなく決まっていました。良くも悪くも文系優位の行政機関。また前例主義のため、新しい試みがなかなか難しい。今行われている事業の数々も、各々の関係者が血のにじむような?努力のもとに力づくで もぎ取ってきたものです。ACIP日本版創設も今が過渡期。と考えます。健康に関することも、不況のため公共事業をばらまくことも、地域経済のために日本航空を助けることも、みんな同じくらい大事なことですから・・・
投稿: ふむふむ | 2009年11月 4日 (水) 10時27分
ロハスメディカルかなんかのサイトでの審議会の詳報で、
今回の新型インフルワクチンの性格について、
「重症化予防という位置づけで良いか?」とくどい程に、
審議会委員に確認している場面がありました。
重症化予防=個人の利益、ということになり、
個人の利益は受益者負担という図式に当てはめる。
すなわち予算措置が不要、財務省との面倒くさい折衝
不要という図式ではと思います。
個人の利益であるようなワクチンを保険では認めない
というこれまでの方針にあてはめたかったのだと
思います。
ダメな人たちです。
投稿: やまげん | 2009年11月 4日 (水) 23時39分
仮説と同じと思いますが
個人予防は任意接種で有料
集団予防は定期接種で予算が必要
財務省が認めてくれないので
投稿: | 2009年11月 5日 (木) 10時52分
お忙しいと思いますが
なるべく、論文の紹介は論文題名でお願いできないでしょうか
引用された論文が私が探した論文と同じかどうかが
気になりますし、リンク先が切れる可能性があります。
投稿: 京都の小児科医 | 2009年11月 5日 (木) 18時25分
"厚労省官僚でも「重症化を防ぐだけで、感染予防には役に立ちません。蔓延も防ぎません」と「うそ」を言うことがあります。うそをつくことは、絶対に許容できません。た だ間違えているのか、わざとやっているのかはわかりませんが。"
なるほど、「感染予防には役に立たない」というのは「うそ」だったのですね。MRICの以下のメールマガジンを読んでおりまして、すっかりと「うそ」を信じてしまいました。毎回毎回、「真実」を知らせて頂いて、ありがとうございます。
"厚労省は、秋から冬にかけての流行に備えて、新型インフルエンザワクチンの購入を検討しています。このような報道を見て、皆さんは、「ワクチンは接種するのが当然だ。接種すれば感染を防げる。」とお考えではないでしょうか。
意外かもしれませんが、季節性インフルエンザワクチンには、あまり予防効果はありません。重症化を防ぐ可能性があると言われていますが、それも100%ではありません。その効果は、ワクチンの型が合っていない場合10~30%、型が合っていても40~80%程度です。"
「新型インフルエンザワクチンで薬害を起こさないために」
http://medg.jp/mt/2009/08/-vol-198-1.html
このメールマガジンを書かれた上昌広先生は、厚労官僚とは違い、紛れもなく医師であり、専門家だと思います。専門家がこのような「うそ」をしゃべっていることになりますので、その影響力は大きいと思います。
また、上先生は民主党のブレーンとしても有名で、民主党の医療政策・医療行政に対する影響力は強いと思います。
岩田先生が「季節性インフルエンザワクチンには感染防止効果がある」と主張するのであれば、公の場で、上先生との間で論争・議論を行うべきではないかと思います。
投稿: bn2islander | 2009年11月 5日 (木) 22時07分
下記は私のPCではリンクが切れてはっきりしません。
http://www.annals.org/content/early/2009/1/05/0003-4819-151-12-200912150-00157.long
Annals of intarnal Medicine と思いますが
恐縮ですが教えていただけないでしょうか
投稿: 京都の小児科医 | 2009年11月 6日 (金) 06時01分
可能なら官僚論と医系技官論、専門家論(学会論)も少しづつしてゆかればと思っています。
官僚論はまず 役人三則があります。
役人学三則 末弘厳太郎
http://www.aozora.gr.jp/cards/000922/files/43242_17420.html
これは霞が関構造改革Kプロジェクト
http://projectk.jp/
霞ヶ関維新
官僚が変わる・日本が変わる
http://www.eijipress.co.jp/book/book.php?epcode=2077
にもとりあげられています。
投稿: 京都の小児科医 | 2009年11月 6日 (金) 06時15分
あと、末弘厳太郎先生には
嘘の効用
http://www.aozora.gr.jp/cards/000922/files/45642_28592.html
もあります。 昔も今もですが、やはり東京大学法学部の教授はすぐれた専門家が多いと感じています。
投稿: 京都の小児科医 | 2009年11月 6日 (金) 09時07分
京都の小児科医様
失礼しました。どうしても本業にかまけてやっつけ仕事になってしまいます。ご容赦ください。コメントにお返事しないことも多々ありますが、同様の理由です。
御指摘の論文はannals of internal medicine
Effectiveness and Cost-Effectiveness of Vaccination Against Pandemic Influenza (H1N1) 2009
で、オンラインパブリケーションです。まだ紙面になっていません。
あと、私もウソはひつようだと思います。ウソをつかずに医者を3日も続けることは不可能でしょう。
投稿: iwata | 2009年11月 6日 (金) 16時05分
あら。
重症化をふせぐ話は、国立感染研究所のワクチンの説明にあった気がするのですが...うーーむ。
医者ですらない私には、なかなか理解しにくい話ですね。論文を読んでみるしかないのでしょうね。多分。
投稿: luckdragon2009 | 2009年11月 8日 (日) 20時54分