コメントに、反論
通常、僕はいただいたコメントに反論しないことにしている。それは「おっしゃるとおりです。失礼しました」のときもあり、「まあ、見解は異なるけど、正解は一つとは限りませんものねえ。尊重いたします」のときもあり、「これは読まなかったふりをしてスルーしちゃえ」のときもある。
例外的に、以下のコメントには反論しておきたい。
monster parents とか、monster patientsとか、他人に何かを要求する時、人間のエゴは際限なく肥大するもののようで、それはdoctorも例外ではないのでしょう。
医師国家試験のスケジュールは、昔に比べれば、これでも随分と早くなっています。
私の時代、3月に大学を卒業した後、4月1日に上京して、大臣から辞令を受け取り、その日のうちに地元に帰って、国家試験を受け、試験後に再び上
京して、霞が関で勤務した後、4月の終わりに合否発表と言うスケジュールでした。
同期の中には、残念ながら不合格となって、即日、辞表を書いて郷里へ帰ったものもいました。
さすがに、これではあんまりだろうということで、多少は改善されて、現在のように2月試験、3月末に発表となっています。
現在の状況だけを見て、「遅すぎる」と担当者を非難するのは、患者が死んだら、何でもかんでも「藪医者、人殺し!」と医者を非難するぐらい無茶な 気がします。
引用終わり
ここからが僕の反論
まず、「過去はもっとひどかったのだから、今の辛苦は我慢すべきだ」という論理構造に反論する。これを許容するのならば、
「戦後は今よりはるかに凶悪犯罪が多かったのだから、多少の殺人事件くらいでがたがた言うな」
「むかしは女はもっとひどい扱いされていたのだから、少々のセクハラくらいで文句言うな」
「昔の医者は月月火水木金金、食わず寝ないで働いていたんだ。月10回の当直くらいでごちゃごちゃ言うな」
「昔は公務員は接待、癒着は当たり前だったのだから、天下りくらい大目に見ろ」
という論理構造もまかり通る。通常、我々はこのようなステートメントを「暴論」と呼ぶ。「過去がより悪かった」、という事実は現在の理不尽を許容して良い根拠にはならない。このような後ろ向きな議論をしてはならない。
さて、コメントでは、僕の意見をモンスターペイシェントとか、モンスターペアレンツに例えている。モンスター○○、というのは自らの理不尽な要求を他者に強要するような人物のことであろう。
物事が理不尽かどうかは、たぶん、個人差がある。ある人にとってはにっこり笑顔で受け入れられる事象も、他者にとっては屈辱に歯がみし、とうていできない相談だったりする。
では、「資格の合否発表とその仕事始めがほぼ同時期に行われるのはおかしい」、という要求は理不尽であろうか。もちろん、この見解にも個人差があり、「それでもいいんじゃない?」という人もいるかもしれない。僕はそのような価値観を全く否定はしない。
だから、僕は厚労省担当者諸氏に条件を提示したのだ。もし、資格の合否発表と仕事始めが同じでもそんなの当然、というお考えであれば、国家試験の合否も4月1日に発表してはいかが?と申したのである。「もちろん、それくらいどってことありませんよ」と笑顔でおっしゃるのならそれでよし。「岩田、ふざけんな、そんなことできるわけないだろ」とお怒りになるのであれば、「では、自分が許容できないような要件は他人に強要すべきではないのでは?」とお答えするのみなのである。でも、僕の想像だが、前者の条件を心の底から許容する官僚は一人としていないはずだ。いたら、教えてください。
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すいません。基本的な疑問ですが担当者って誰なのでしょうか
厚生労働省医政局医事課試験免許室のようにも
思うのですがここが日本の医師国家試験の発表時期をきめる権限があるとの理解でいいでしょうか
投稿: 京都の小児科医 | 2010年3月31日 (水) 14時41分
岩田先生、あまりの嬉しさに、初めてコメントさせていただきます。
『先生のコメントへの反論』を読み、失礼ですが「え?何言ってんの?理屈がおかしい。」と思い、僕の心に浮かんだ反論を、正に 100%、全く同じ理論で先生が更に反論されていたので、感激して思わずコメントしてしまいました。
過去との比較に安住するのではなく更に改善の余地があるのであれば、あるべき目標を目指さねば、人間は進歩という概念を捨ててしまう事になります。
事情により匿名となる事をお許し下さい。
今までも、そしてこれからも、学会等でお世話になります。
投稿: 静岡の一薬剤師 | 2010年3月31日 (水) 20時57分
言い忘れましたが、こんなコメントをしなければならない状況が、とても悲しいです。
投稿: 静岡の一薬剤師 | 2010年3月31日 (水) 21時11分
すみません、まだ気持ちがおさまりませんので、もう一つだけコメントさせて下さい。
僕が最も尊敬する役者である松本幸四郎さんのライフ・ワーク、ミュージカルの『ラ・マンチャの男』でのセルバンテス、即ちドン・キホーテの台詞が、先程から僕の頭の中をグルグルと回っています。
「一体、狂気とは何だ?現実のみを追って夢を持たぬのも狂気かもしれぬ。夢に溺れて現実を見ないのも狂気かもしれぬ。なかでも最も憎むべき狂気は、ありのままの人生に折り合いをつけてあるべき姿の為に戦わぬ事だ。」
投稿: 静岡の一薬剤師 | 2010年3月31日 (水) 22時11分
本件は医師国家試験(特に医師数の恣意的調整も含む)が
どこまで、法に基づいたものかどこまで厚生労働省官僚の裁量の範囲なのかをどなたかすこし詳しく書いていただけると
も思いました。 ただ、おもしろい話題なのでちょっと勉強して
みます。
追加:
総括もおもしろかったです。
http://twitter.com/yyguu
投稿: 京都の小児科医 | 2010年4月 1日 (木) 04時24分
医師国家試験改善検討委員会報告書
平成15年4月17日
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/04/s0417-2b.html
ここから変ったと理解しました。
3月中というのが厚生労働省の裁量範囲で3月後半ではなく3月前半に移動する障害は何かを議論すればいいのでは
3.試験の早期化
現在、医師国家試験は例年3月に試験を実施し、4月に合格発表を行っている。このため、合格発表後医籍に登録されるまでの約1ヶ月間は、医療機関に雇用されながら医業に従事することができない状況にある。一方、平成16年度より臨床研修が必修化され、新たな制度下では研修医は2年以上の期間、研修プログラムに基づく臨床研修を行うこととなっている。
臨床研修の必修化を契機として、医師国家試験を受験した者が4月1日から円滑に臨床研修を実施できる体制を整備することが必要である。
今後、厚生労働省は、大学関係者との十分な調整を行った上で、一定の周知期間を設け、新たな新医師国家試験制度が適用される平成17年(第99回)の試験から早期化(2月第3週頃迄に国家試験を実施し3月中に合格発表)を行うことが望ましい。
投稿: 京都の小児科医 | 2010年4月 1日 (木) 21時16分
私のコメントに対して、反論が掲載されていると聞いたので、拝見しに参りました。
正直に申し上げると、もう少し気の利いたセンスの良い反論を期待していたのですが、割と感情的かつ短絡的な内容に少々がっかりしています。
岩田先生の著作などは時々拝読しておりますが、なかなか面白い考え方をする個性的なお方と認識しております。
特に「感染症は実在しない」などは、なかなかの名著だと思います。非常にユニークな視点で書かれていて、色んな意味で参考になりました。
投稿: 風 | 2010年4月 5日 (月) 22時39分
反論へのコメント
岩田先生と議論するのは、とても面白そうなので、延々と繰り広げても良いのですが、他のほとんどの人には迷惑なだけでしょうから、程々にしておきます。
》まず、「過去はもっとひどかったのだから、今の辛苦は我慢すべきだ」という論理構造に反論する。
お説のとおり、「過去はもっとひどかったのだから、今の辛苦は我慢すべきだ」という論理は成り立ちません。
しかし、より酷かった過去から、多少はましになった現在に至る変革に尽力した先人達の辛苦・努力には敬意を表すべきでしょう。たとえ、それが不十分で、今に至っても理不尽な状態が残っているとしても、それをもって先人の功績を否定するのは乱暴ではないかと思います。
》「過去がより悪かった」、という事実は現在の理不尽を許容して良い根拠にはならない。このような後ろ向きな議論をしてはならない。
では、どこまですれば、良いのでしょうか。具体的には、国家試験の実施日と合否発表の日程をいつにすれば良いのでしょうか。
私の時代は、病院への採用は4月下旬、合否発表とほぼ同じ時期でしたし、臨床研修は5月の連休明けからでした。
今は、合否発表が1ヶ月早くなった結果、採用も1ヶ月早まってしまっています。仮に、2月末に合否を発表したら、病院への採用も結局、1ヶ月早まってしまうのではないでしょうか。そうすると、2月末採用なのに、2月末の合否発表は理不尽と言うことになるのでしょうか。
》さて、コメントでは、僕の意見をモンスターペイシェントとか、モンスターペアレンツに例えている。モンスター○○、というのは自らの理不尽な要求を他者に強要するような人物のことであろう。
何かの本で、岩田先生は「モンスター・ドクター」になることを目標にしていると書かれているのを読んだ覚えがありますが、私の勘違いだったでしょうか。
Monster Doctorと呼ばれて、気分を害されるとは、意外な反応でした。
ただし、個人的には、monster doctorの部下や家族には成りたくないなと思っております。
》だから、僕は厚労省担当者諸氏に条件を提示したのだ。もし、資格の合否発表と仕事始めが同じでもそんなの当然、というお考えであれば、国家試験の合否も4月1日に発表してはいかが?と申したのである。
厚生労働省の今の課長以上の中堅幹部の方々は、先日のコメントにも書いたように、4月1日に採用されてから、国家試験を受験したというような経歴の方々ですから、「資格の合否発表と仕事始めが同じ」なのは、理不尽と言っても、あまりピンとこないでしょう。「それが、何か?」と聞き返されるだけかも知れません。
投稿: 風 | 2010年4月 5日 (月) 23時20分
>より酷かった過去から、多少はましになった現在に至る変革に尽力した先人達の辛苦・努力には敬意を表すべきでしょう。たとえ、それが不十分で、今に至っても理不尽な状態が残っているとしても、それをもって先人の功績を否定するのは乱暴ではないかと思います
横からで申し訳ありません。
官僚ヒラメ論というのがあります。つまり官僚は国民目線ではなく、常に見ているのは上司であるという意味です。
官僚以外の他の組織でも基本的にはそうでしょうが、この場合の先人とは厚生労働官僚の先人(上司)をさされるのではと推測します。
私は故勝俣稔先生とかはすごい方とも思いますが、少なくとも先人(上司)よりは同時代人に目をむけてほしいです。
投稿: 京都の小児科医 | 2010年4月 6日 (火) 09時27分