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多いとはどういうことか(子宮頸癌ワクチン副作用多発?)

よく誤解されるが、大小とか多少という数値評価の概念は主観的なものである。客観的な基準は存在しない。血圧が高いというのも、給料が安いというのも、内閣支持率が低いというのも(ときには下がったというのも)すべて主観的な判断である。だから、僕は新聞記者さんたちに「多いというなら、何をもって多いのか根拠を示してください」とお願いする。この問いに答えられるマスメディアのジャーナリストは、僕の知る限り希有である。そもそも、「根拠を示してください」という問いそのものに慣れていないように見受けられる。

我々は数字を使うと客観的で主観の入っていない言説をしているような錯覚に襲われる。

12月28日、読売新聞の記事、見出しは「子宮頸癌ワクチンで副作用、多発」である。

(引用)
 子宮頸(けい)がんワクチンの副作用として、気を失う例の多いことが、厚生労働省の調査でわかった。

(中略)昨年12月以降、推計40万人が接種を受けた が、10月末現在の副作用の報告は81人。最も多いのが失神・意識消失の21件で、失神寸前の状態になった例も2件あった。その他は発熱(11件)、注射 した部分の痛み(9件)、頭痛(7件)などだった。(引用終わり)

さて、「多発」、つまり発生が多いというからには、「多い」とはどのくらいのことか、と定義しなければならない。40万中の81は「多い」のか?多いというからには、何を根拠にそういうのか?「他のワクチンと比べて」そうなのか?その利益を凌駕するくらい多いのか?と考えるのが普通である。

もちろん、言い訳はできる。「頭痛や発熱よりは多かったじゃないですか」というのである。その小学生的な屁理屈を百マンボ譲って認めたとしても、「多発」というのは絶対的な言説であるから、どちらにしても見出しの正当性は担保されない。例えば、「読売新聞で「誤植」が多発」と言ったとして、「いやいや、捏造やデマや誤情報よりは多いでしょう」と言い訳したら、とてもいやな顔をするに決まっている(もちろん、僕はそんなイヤラシイことは言いません)。

もちろん、これは定型的な新聞記事である。このように書きなさいと先輩に教えられたプロトコル通りの記事であり、「コンプライアンス上は」なんの問題もない。手続き的には「正しい」記事である。これは新聞記事だけでなく、医療でも教育でも何にでも応用できるけど、「手続き的には間違ったことをしていません」という言説が、いかに人の知性を劣化させるかの証左なのである。

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日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

読売のサイトでこの記事が「科学」に分類されているのが面白いですね。

子宮頸癌ワクチン摂取を契機にSLEを発症した女の子がいました。まれなケースでしょうけど。アジュバントとかが影響するのでしょうか。

いつも興味深く拝見しております。
子宮う頚ガンワクチン350万人接種して約3000人の副作用とのこと。本日2013年5月16日のニュースで厚生省会議で抗議する反ワクチン団体の映像がありました。でも、小児科に携わった人ならこれを本当に子宮頚ガンワクチンの副作用と考える人は少ないのではと思います。キーワードは「思春期の女性」ということです。筋肉注射のわけですが、実は注射の痛みだけで卒倒してしまう女の子が意外に多いです。一般外来をした医師ならみなさん分かってくれると思いますが、13歳、14歳の女の子が発熱以外で来院した場合、なんと頭痛や歩行障害、嘔気やふるえなどが多いことか!実感します。いろいろ調べますが、結局はメンタル的な原因です。思春期の女性の複雑かつ不安定な精神状態が一因と厚生省や薬事関係者も気付いているけど面と言えない(なかなか立証し難い)もどかしさがあるのではないでしょうか。350万人中3000人も感覚としてはそのくらいの割合かなと感じます。テレビで盛んにながされる立てなくてふらふら歩く女の子やベットで意味不明の言葉で転げまわる女の子はどうみても一般的な副作用症状とは専門家は思わないでしょう(インパクトある映像ですが思春期外来ではよくみられる精神症状です)。ワクチン接種が精神的不安定を促したというなら理解できるのです。しかし思春期外来の医師は極めて少ないことが悩ましいところかなと感じます。あと、感染症・ワクチン専門家の顔がもっと出てきてもいいのではと感じます。

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