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感染検査の考え方、使い方 間違いだらけの検査選び

久しぶりに検査の話を

以下の論文のネタバレです。読んでいない方は気をつけてください。

keeping an open mind. NEJM 2009;360:72-6





髄膜炎の診断で特に難しいのが結核性髄膜炎とクリプトコッカス髄膜炎だと思います。前者は特に難問で、髄液の塗抹、培養、PCR、ADA、画像所見、そして臨床所見や病歴すら、「これならば結核性髄膜炎でない」と断言させるには不十分です。

一方、クリプトコッカス髄膜炎は、病歴でかなり絞ることが出来、ほぼ全例エイズか免疫抑制剤、特にステロイドを使用しています。臓器移植患者でも多く、免疫抑制剤の多い心移植患者では特にリスクが高いそうです。

 で、その検査ですが、墨汁染色(インディアインクも)の塗抹検査は感度は高くありません。では、クリプトコッカス抗原検査は?これは感度は高いですが、やはり偽陰性が6%程度まではあるそうです。菌量が少なかったり、発症初期だったり、莢膜が発達していなかったり、プロゾーン現象が起きているとそういうことが起きるのだとか。

No test is 100% sensitive.

が教訓です。

CRPは役に立つ?12

Critical care (London, England) (2006) vol. 10 (2) pp. R63

では、CRPがICUの感染に役に立つかどうかが検証されています。デザイン的にはICUで5日間治療なしでみていた感染症、という結構無理な患者さんたちを相手にしているので微妙です。

でも、どんな研究でも大抵はいろいろ勉強できることはあります。こき下ろすだけが論文読みではありません。

それは、この論文でCRPが上がり続けている場合は感染症の可能性が高い、という点が明示されたことです。毎日上がり続けるCRPには要注意、ということで、このことは別の観点から議論したことがあります。理論的にもそうなのですが、実証しましたよ、という話でした。

プロカルシトニンの使い方1

プロカルシトニンは、CRPなどのバイオマーカーの一種で、細菌感染症に対してCRPよりも感度、特異度に勝っているといわれています。具体的にこの検査をどう現場で運用するかは、まだ検証が十分ではありません。日本では敗血症を疑ったときに保険適応があり、320点だそうです。エンドトキシンとは同時に測定できないので、まあどっちを測るかと言えば、プロカルシトニンでしょう。

プライマリ・ケアの急性気道感染症で抗菌薬を使うかどうかの決め手にプロカルシトニンをつかったらどうや、というのがスイスで行われたスタディーです。Arch Intern Med. 2008;168:2000-これによると、プロカルシトニンが上がっていれば抗菌薬、なければ使わない、というプロトコルに載せると、従来の診療パターンよりずっと抗菌薬処方は減りました。特に、かぜ、急性咽頭炎、急性気管支炎では顕著で、患者の有症状期間に代表される臨床予後は変わりありませんでした。

外来における抗菌薬適正使用はどこの国でもあまり上手くいっていません。現行の感染制御の専門性や戦略が入院患者にほぼ特化しているためです。米国でも外来診療における抗菌薬使用は無意味な広域抗菌薬のオンパレードです。

教育活動も大事ですが、それにも限界があるかも知れません。もしかしたら、PCTを有効に使えば上手な抗菌薬使用に誘導できる可能性があります。CRPが日本の感染症診療の質を下げた(部分がある)と私は思います。CRPが0.2なので抗菌薬切れません、みたいな。でも、バイオマーカーとはさみは使いよう、ということなのかもしれません。

白血球の使い方

White blood cell count is often ordered inappropriately and has almost no value as a screening test.....

Wallach J. Interepretation of Diagnostic Tests. 8th ed.

 白血球の話をします。白血球カウントは現場でよく行われていますが、その実その意味が理解されていない、という意味ではCRP同様です。そして、CRPとことなり、WBCは米国でもよく計測されますが(習慣的に)、その意味するところはあまり理解されていません。米国の医師は検査を十分吟味して行う、とときどき言われますが、私はその見解には疑問を持っています。確かに、相対的には日本の大学病院の医者よりはずっとマシだと思いますが。
 あるドイツ人の医師が「カリウムだけ」オーダーしていた日のことを私は忘れられません。米国人の医者も結構適当、いい加減、「前からやってるから」「みんながやってるから」という理由で検査をオーダーしています。

 さあ、その頻用される白血球ですが、どのように用いればいいのでしょうか。

白血球が高い!

・白血球やその分画で細菌感染か非細菌感染かを峻別する能力は低いとされます。極端に高い場合などは別ですが、予後決定因子としても使いにくい。ちなみに、PSI(pneumonia severity index)では白血球数については、肺炎の30日後死亡率との関連が得られませんでした。
・白血球の形態についてはどうでしょう。Dohle's body, toxic granulation, vacuolesなどがアネクドータルに紹介されています。私も研修医の時は、「toxic granulationがあって、、、、」なんて言っていましたが、使えるかどうか、、

好中球増加(8000以上)

・もちろん、よくあるのが炎症性疾患
・肺炎、髄膜炎、咽頭炎、膿瘍などの感染症
・リウマチ熱、血管炎などの非感染症、痛風発作
は有名です。有名すぎて、白血球が高くってもそれそのものがほとんど情報として使えないくらいです。

では、見逃されやすい白血球増多の原因としては、、、、

・尿毒症
・アシドーシス
・子癇(eclampsia)
・水銀中毒
・エピネフリンの使用
・クモ咬傷
・予防接種
・急性出血(消化管出血でよく白血球は上がります。コンテクストを考えましょう。コンテクストを考えないで、研修医が「感染症の合併を疑って抗生物質使いました」なんてプレゼンをするのを聞いたことがあります)。
・急性溶血性貧血
・骨髄増殖性疾患
・組織壊死
・心筋梗塞(これもコモン!)
・腫瘍壊死
・熱傷

さらにさらに
・運動(それだけ?)
・感情的なストレス(まじで?)
・生理
・分娩(何と!)

このように「炎症が無くても」白血球はよく上がります。

まだまだあります。
・ステロイド使用(これは有名。実際の白血球増加ではなく、周辺にある白血球がカウントされるようになっただけの「見かけ」の増加ですが。逆に、ステロイド使用時に毎日毎日どんどんどんどん白血球が増えている場合は要注意。「ステロイド使ってますから」なんて看過していると重大な感染症を見落としていたりしますよ)。プレドニゾン40mgを使うと好中球が1,700から7,500増えるのだそうです。しかし、4−6時間でさくっと増えた後は24時間以内に正常範囲内に戻るのだとか。むしろ、リンパ球や単球は減ると言います。

リンパ球増加(成人で4000以上、青少年で7200以上、小児だと9000以上)

・感染症
特に有名なのが、百日咳、伝染性単核球症、感染性肝炎、サイトメガロウイルス感染、ムンプス、風疹、水痘、トキソプラズマ症などです。
結核や急性感染症の回復期でも上昇します。

他にもリンパ球増加の原因として
・Addison病
・Crohn病
・潰瘍性大腸炎
・白血病
・血清病(ありましたね!)
・薬物過敏症
・血管炎
などがあります。

杏林大学の皿谷先生のブログで知ったのですが、

Lymphocyte count/ WBCのtotal countが、0.35以上ならば伝染性単核球症である確率は、感度90%,特異度100%なのだそうです。化膿性扁桃炎との鑑別に有用なのだとか。

Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2007 Jan;133(1):61-4

ただし、著者らもこのスタディーを「パイロットスタディー」だと位置づけていますし、レファレンスはモノスポットテスト(日本ではあまり使われないIMの検査。感度が低いのが難点ですし、特異度もちょっと、、、SLEやリンパ腫でも陽性になることがあります)なので、ちょっと慎重に見る必要があると思います。なお、IMをみたら、必ずHIV感染を考えましょう。

さて、IMといえばatypical lymphocytes. 非定型リンパ球です。これはどうでしょうか。実は、他の疾患でも上昇するので注意が必要です。怖い病気もありますよ。
・リンパ球性白血病
肝機能、LDHの時に話をしましたが、IMと血液疾患を区別するのは結構難しいときがあります。時が解決してくれることも多いですが。
他にも
・百日咳(これは有名)
・ブルセラ症
・(ときに)梅毒
・トキソプラズマ症
・血清病や薬物過敏
そして、
・正常人でも6%までの非定型リンパ球は見られる
ですって。

単球増加(分画で10%以上か、絶対値で500以上)。

単球なんてあまり注目しないことが多いかもしれませんが、これが高いと
・Hodgkin病などのリンパ腫
・白血病
・骨髄増殖性疾患
・Gaucher病などの脂質蓄積性疾患
などが隠れていることがあるそうです。そうやって診断したこと、ないですが。
他にも
・脾摘後
・マラリア
・カラ・アザール
・ロッキー山脈紅斑熱
・チフス
・亜急性心内膜炎
・結核
・ブルセラ症
・サルコイドーシス
・RA,SLEなど膠原病
などで上昇するそうですが、臨床的には役に立つかなあ。「単球上昇をきっかけに診断できたマラリア」なんて聞いたことないし、、、、まあ、敢えて言うなら、結核ではちょびっとヒントになることがありますが。

単球上昇はあまり診断には寄与しないと思いますが、「単球減少」をきたす疾患は教科書には一つしか書かれていませんでした。これは、役に立つかな?
・hairy cell leukemia
何と、、、、

形質細胞の増加
・感染症じゃないことがほとんどで、血液疾患などがほとんどです。肝硬変やRA、SLEでも上がることがあるそうです。感染症では結核、梅毒、マラリア、旋毛虫症などで上昇、と教科書にはありますが、診断に寄与するかというと、、、、、

好塩基球
・感染症的にはあまり役に立ちません。血液疾患でもあまり、、、これでCMLを診断できた、みたいな話は少ないようですが。

好酸球増加
・これは結構大事。いちおう、250以上で異常です。
・アレルギー、寄生虫がメインです。
・寄生虫では、単細胞の原虫では上がることはなく、多細胞の蠕虫で上昇することが多いです。アメーバ肝膿瘍とか、ジアルジア、マラリアでは好酸球は上がりません。
・逆に、住血吸虫症、糞線虫症などでは上昇していることが多いです。HTLV-1陽性で好酸球が上がっていたら、便の生スメアを見ろ!というのが沖縄中部病院の鉄則です。
・コクシジオマイコシスの初感染、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)でも上がることがあります。ABPAは厳密には感染症というよりアレルギー性疾患ですからむべなるかな。決して「肺アスペルギルス症」というファジーな病名をつけてはいけません。
・猩紅熱、(マイコプラズマ感染などで起きる)多形滲出性紅斑、クラミジア感染、ネコひっかき病、ブルセラ症など非寄生虫感染などでも上昇するとか。
・periarteritis nodosa, RA, SLEなど結合組織病でも上昇しますが、一番有名なのは、これも喘息チックなChurg-Strauss 症候群。喘息症状で好酸球が高くて、ニューロパチーなんかあるとこれを考えます。
・白血病、リンパ腫でも上昇します。
・脾摘後にも上がるんですって。
・Wiskott-Aldrich, GVHD, cyclic neutropenia, IgA deficiencyなどでも起きるそうです。
・好酸球性腸炎、炎症性腸疾患、などの消化器の炎症
・有名なのはAddison病!
・他にも、多種多様な固形がん、サルコイドーシス、リン中毒、クモ咬傷などで上昇するとか、、、、
・私の場合、入院中に発症したかどうかで分けます。入院中ならほとんどお薬です。たまに副腎不全。外からくる患者であれば随伴症状で絞っていきます。ABPA、Churg、Addison、寄生虫感染などは常に注意です。HTLV-1と糞線虫は、住んでいる場所によっては重要です。

類白血病反応
 leukemoid reactionと英語ではいいます。日本語だと硬い表現ですが、要は「白血病もどき」です。
 重症感染症により白血球数が異常に増加し、末梢血に芽球が見られることもあります。通常は白血球数は5万以上に上がります。
 感染症と診断されていてこのような現象があれば、「やや、白血病の発症か」なんて思わなくても通常は大丈夫です。オッカムのカミソリを使い、急性疾患がいくつも偶然重なることはまれであり、急性感染症で入院した人が、たまたま偶然白血病も発症するなんて確率的には考えづらいからです。もっとも、最初の「感染症」の診断が誤診で、実は最初から白血病だった、というシナリオには常に注意しなくてはいけません。
 類白血病反応は原疾患の治療だけで良くなります。白血球がいくら高くてもそれで死亡率が上がるわけではないので慌てる必要はありません。また、これはエビデンスが強固ではないですが、類白血病反応が有意に脳梗塞や心筋梗塞など血管閉塞性疾患を増やすことはないと考えられています。予防的なアスピリンやヘパリンも不要だと考えます。


あと、喫煙も白血球を増やします。これも健診なんかでよく紹介される理由です。あれやこれやの抗生物質を「白血球を下げるために」投与されたあげくに紹介されたことがありますが、禁煙で下がりました。抗生物質投与の前に、必ず患者は診察しましょう。

好中球が低いとき
・まず、薬を考えます。サルファ剤、サイアザイド利尿薬、プロピルチオウラシルなどなど。
・あとは、化学療法ですか、、、
・血液疾患があるときは、「白血球正常あるいは増加」でも実際には悪性細胞だけで、好中球減少だったりします。要注意。
・cyclic neutropeniaという時々熱が出て好中球が下がっている遺伝子疾患があります。このような周期性の熱にはしばしばお目にかかりますが、あいにくcyclic neutropeniaはまだ見たことがありません。

リンパ球が低いとき
・化学療法で下がります。ステロイドでも(白血球は増えるのに)下がるのは、意外に知られていないので要注意。Cushing病もね。
・Hodgkin病などの血液疾患、Wiskott-Aldrich, ataxia telangiectasiaでも下がります。combined immunodeficiencyは成人の先天性免疫不全ではもっともコモンですが、これでもリンパ球が下がるそうです。
・SLE,HIV、アプラ(再生不良性貧血)、粟粒結核、腎不全、重症筋無力症は忘れないように、、、、

参考
Jacques Wallach. Interpretation of diagnostic tests. 8th ed. Lippincott Williams and Wilkins.
田中和豊 問題解決型救急初期検査 医学書院
Talan DA et al. Severe sepsis and septic shock in the emergency department. Infect Dis Clin N Am 22(2008)1-31

肝機能の考え方

肝機能の解説をします。といってもここでは感染症に関連した肝機能の解説です。もちろん、あくまでも臨床的にアプローチします。

よくあるピットフォールその1
・肝機能異常=ウイルス性肝炎という誤謬
HBsAG(B型肝炎表面抗原)とHCV抗体だけを測って、
「B型肝炎、C型肝炎は否定的です」
「じゃ、どうして肝機能悪いの?」
「、、、、、」
というのはよくある話。そもそも、ウイルス性肝炎も、A型やE型(こっちは簡単に診断できないけど)もあるのだから、BとCで満足してはいけません。

 こっからは私のあくまで個人的な見解なのですが、日本の研修医の多くが上のような失敗をしてしまう遠因に、PBL、problem based learningの間違った運用があると思います。これはきちんと調べたわけではなく、あくまで私が見聞きしたり学生さんの話を聞いたうえでの憶測に過ぎませんが。
 日本のPBLは、形こそPBLというやり方を取っていますが、実際には問題解決型のアプローチを取っていないことがよくあります。問題文章中のキーワードから思いつくことを並べ立て、あとは検査の解釈ゲーム。「この検査が陽性だと○○病を示唆する」といった知識ばかりがついていきます。そしてそのうち、知らず知らずのうちに「この検査が陰性だと○○病は否定的」という隠喩が込められてきます。
「検査陽性だと○○病」「検査陰性だと○○病は否定的」という議論は日本の多くのケースカンファで語られるところです。検査前確率も感度特異度もまるで無視、です。さらに、このような議論形式で「検査陰性だと○○病は否定しました」ということで研修医が満足してしまい、「もう私の仕事は終わった」といわんばかりです。だから私に
「だったらいったい何なの?」とつっこまれるのです。
 これが本来のプロブレムに乗っかったアプローチのはずです。(典型的な)公務員・お役所との、「それについては通知を出しました」「でも問題は続いてんですけど」という不毛な会話を思い出させます。

 ウイルス性肝炎以外にも肝臓を悪くする病気はたくさんあります。自己免疫性肝炎、薬剤性肝炎、primary sclerosing cholangitis(PSC)、Primary biliary cirrhosis(PBC)、ウイルソン病などなど。いきなりそういう疾患群を全部検査する必要はありませんが、「ウイルス性肝炎否定的です、おしまい」になるのはよくありません。

よくあるピットフォールその2
・肝機能を悪くするのは「肝臓の病気」だけではありません。
 
 よく見逃されているのは、伝染性単核球症です。肝機能異常が目立ちますが、頚部リンパ節腫脹など、「肝疾患」では説明が付かない急性あるいは亜急性の疾患です。血液検査だけで熱をアプローチし、問診や診察をさぼっていると簡単に見逃してしまいます。
 伝染性単核球症をみたら、次のアプローチは「何が起こしているIMか」となります。多くはEBVですが、CMV、トキソプラズマなどさまざまな病原体が起こします。忘れていけないのはHIV。伝染性単核球症をみたら必ずHIV感染を鑑別に入れましょう。このとき行う試験は、EIAだけでなく、PCRが必要です。
 ときに、伝染性単核球症はとんでもなくLDHが高くなってびっくりすることがあります。私も昔、1000以上のLDHをみて「これはリンパ腫じゃないか」と心配になり、当時勤めていた診療所から大きな病院に紹介したことがあります。なんのことはない、EBVによる伝染性単核球症でした。
 あと、右心不全に伴う肝機能異常もよく見ます。
 感染症だと、レプトスピラ、マイコプラズマ、Q熱あたりがときどき肝機能異常を起こしますが、少しマニアックでしょうか。いきなり飛びつく必要はないでしょう。
 むしろ覚えておくべきは「敗血症」です。敗血症でときどき直接ビリルビン有意のビリルビン上昇を起こすことが知られています。臓器障害を伴う、いわゆる重症敗血症「severe sepsis」ですね。敗血症が治れば自然に下がってきます。敗血症によるビリルビン上昇と、薬剤(特に抗菌薬)によるビリルビン上昇の鑑別はときどき難しいです。敗血症がよくなって行くに従ってビリルビンが下がっていけば薬剤によるものは否定的でしょう。このように、「時間が解決してくれる鑑別診断」はよくあります。逆に、敗血症がよくなっているのにビリルビンはどんどん上昇していれば、これは薬剤を強く疑います。どっちか分からない場合は原因菌をカバーする異なる系統の抗菌薬に変更する、というのも選択肢かもしれません。ビリルビン上昇=胆管炎、胆嚢炎、というのもよくある誤謬です。ビリルビンが上がった発熱でも肺炎や尿路感染と言ったコモンな疾患は必ず鑑別に入れましょう。
 その胆管炎、胆嚢炎もよく勘違いされる疾患です。まず大切なのは、
 胆管炎と胆嚢炎は違う!
 ということです。もちろん、例外的な、胆嚢炎から続発する胆管炎(Mirizzi症候群)なんかもありますが、両者を明快に区別するのはきわめて重要です。
 なぜ両者を区別するのが大事かというと、呼ぶ医師が変わってくるのです。基本的に

 胆管炎は消化器内科の病気
 胆嚢炎は外科医の病気

 です。これが両者をもっとも端的に言い表した表現だと私は思います。
 胆管炎は総胆管閉塞を起こす疾患で、経皮、あるいは経消化管的なドレナージが必要です。内視鏡の得意な日本では内視鏡的胆道ドレナージ(ENBD,ERBD)の方が多いでしょうか。ドレナージさえしっかりしていればさくっと治ってしまう疾患です(悪性疾患がらみは手強いですが、、、、)
 胆嚢炎は、「胆嚢管cystic duct」の閉塞からおきる胆嚢内圧の上昇、炎症、そして(たぶん)感染症と展開する疾患で、治療の基本は胆嚢摘出術です。腹腔鏡あるいは開腹術となります。経皮胆嚢ドレナージはあくまでもオペができない人のための次善の手段であり、原則は手術が治療法。急性期にオペをしてしまうか、急性期が過ぎて胆嚢がぐずぐずになってしまえば抗菌薬で炎症が治まるまで待ってから手術で治療します。
 胆管炎は総胆管閉塞による、「胆道系酵素」の上昇がよく見られます。ビリルビン、LDH、γGTP、ALPなどです。しかし、胆嚢炎は原則総胆管は開いていますから、胆道系酵素異常は起きなくてもOKです。
「肝機能正常で、胆嚢炎、胆管炎は否定的です」
なんてプレゼンをする研修医は多いですが、ぶっぶーですよ。実のところ、胆嚢炎では肝機能がまったく正常な場合だって珍しくないのです。理由は考えてみてくださいね。
 むしろ、胆嚢炎の診断には問診、診察と画像の方が威力を発揮すると思います。その話は「画像編」でいたしましょう。

よくあるピットフォールその3
・肝機能正常で、肝臓は大丈夫です。
 実は肝硬変だったりします。肝硬変と「肝機能」は見ているところが違うのです。トランスアミラーゼ正常(あるいは低値)の肝硬変は珍しくありません。
 肝硬変の指標としては、身体所見(asterixisなど)、腹水の有無、アルブミン、凝固機能など、いわゆる血液検査の「肝機能」でないところも重要になってきます。血小板減少なんかも大事ですよね。肝機能だけが肝臓のマーカーではないことも注意してください。
 肝硬変をもつ患者の起こしやすい感染症って何でしょうか?感染症マニアはすかさず、
「Vibrio vulnificus感染」
 というでしょう。もちろん、それは大正解ですが、頻度的に多いのは、おそらくSBP、spontaneous bacterial peritonitisです。
 SBPは結構見逃されています。肝硬変があって腹水がたまっていて熱があれば、そうでないと分かるまではSBPです。臨床症状はパットせず、腹膜炎、という名前が付いている癖におなかは柔らかくて痛くもかゆくもない、というのが典型です。血液検査はぱっとしません。肝機能も正常のことが多い。腹水を取って、好中球(白血球にあらず)250以上を持って診断します。

よくあるピットフォールその4
・LDHが高くなる疾患だからといって肝疾患とは限らない
 感染症系で多いのは、PCPなど肺疾患です。他にも溶血性貧血、心筋梗塞や横紋筋融解症、リンパ腫や白血病なんかでも上昇します。LDHは肝臓、赤血球、筋肉、悪性腫瘍内に存在して、それらの破壊による上昇があるからです。伝染性単核球症でも上昇するのはすでに述べたとおり。ときどき、リンパ腫との区別が難しい伝染性単核球症が、あるいは一見伝染性単核球症に見えて実はリンパ腫だった、ということがあります。LDHのサブタイプがよく検査の教科書で解説されていますが、私自身はあの測定を必要としたことが、ほとんどありません。臨床的に判断できることがほとんどですし、分からないものはサブタイプを測ってもよく分からない、、、、、

最後に、間接ビリルビンの上昇。無症状であればGilbertが一番多いと思いますが、リファンピンで上がることがあります。梅毒治療でおつまみにつかうプロベネシドでも間接ビリルビンが上がることがあります。

参考
田中和豊 問題解決型救急初期検査 医学書院
Jaundice. In. Harrison's Principles of Internal Medicine 17th ed.

麻疹抗体検査

麻疹抗体検査の解釈

 諸外国では免疫確認のためにしか使わない麻疹の抗体検査ですが、日本では未だにアウトブレイク後の対応や臨床診断に用いられています。未だに麻疹が流行っているなんて、本当に日本は恥ずかしい。もっとも、関西の某大学も最近流行ったので面目ないとしか言いようがありません。

 麻疹という疾患は臨床診断でいけることも多く、特にKoplik斑を認めればかなり高い特異度で診断可能でしょう。血液検査では、一般に血清学的な検査が用いられます。
 
麻疹の診断

 麻疹の診断にはEIA (enzyme immunoassay)のIgMを測定します。

 ちょっと脱線。私は検査の素人なので、EIAとELISAの違いがうまく理解できていませんでした。そこで調べてみると、以下のような説明があります。

http://www.osaka-amt.or.jp/mtqa/qa036.html より

「免疫の本を読んでいてよく分からなかったのですが、EIAとELISAの違いは何なのでしょうか? 出来れば具体的に教えていただけませんでしょうか。 

 EIAとは抗原抗体反応を利用して物質を測定する方法のうち、「酵素を標識物とする方法」の「総称」です。 EIAにはご存知のように均一系(Homogeneous)と不均一系(Heterogeneous)があり、ご質問のELISAは不均一系のものです。
 不均一系は競合法と非競合法に大別されます。この系は高感度ですが、検出したい物質の分子量はある程度の大きさが必要になります。
 競合法は、一定量の抗体をビーズやプレートなどに固相化し(固相化しない方法もある)、被検試料(目的物を検出したい試料)ならびにあらかじめ用意してある一定量の酵素標識抗原を同時に反応させ、結合できた酵素標識物の量から被検試料中の抗原(目的物)の量を知る方法です。
 一方、非競合法は競合法と同様に抗体(あるいは抗原)を固相化して、そこに被検試料(目的物)を反応させた後、酵素標識抗体を反応させることにより目的物の量を知る方法です。
 ELISAは、このように固相化した方法でのEIAのことを指します。」以上、引用終わり

なんちゅう分かりづらい説明や。何度か読み直さないと何のことだかわからない。

 Manual of Clinical Microbiology 8th ed. を開くと、英語にもかかわらず、ずっと分かりやすい説明が載っていました。

「Because there are number of configurations of these EIA systems, more specific names may be used, such as the enzyme-linked immunosorbent assay (ELISA), in which an antibody or antigen reagent is adsorbed (sorbent) onto a solid-phase support」

両者の説明のわかりやすさからいろいろな教訓を得ることができますが、今回はそこは割愛、、

 脱線終わり

 麻疹IgMは皮疹がでた時点から陽性になり、4週間はその後陽性が続くといいます。もちろん、完璧な検査などこの世には存在しませんから、問題点はあります。発症すぐに、特に発疹前に採取した検体だと偽陰性がでることがあります。また、ある検査系では発疹初日に採取した検体でも77%しか検査が陽性になりませんでした。
 偽陽性も問題です。IgMではリウマチ因子の存在で偽陽性になることが知られています。リウマチ因子はIgGに対するIgMですよね。
 EIAの感度、特異度はそれぞれ90%、99%くらいだそうです。メーカーによっても若干差があるでしょうが。陽性適中率、陰性適中率は麻疹のはやり具合や検査前確率によって動くそうで、50%以下になったり、99%になったりするそうです。計算上は、感度特異度は疾患の頻度に依存しないので動かないはず(ですが、けっこう差が出るような気がします。理由はよく理解できませんが)。
 また、パルボウイルスB19や風疹ウイルスと交叉反応を起こして偽陽性になると言う記載もあります。実は、私も30代女性の微熱、関節痛、うっすら皮疹の患者さんで「麻疹IgM陽性でした」というふれこみで紹介されたことがあります。おかしいな、全然麻疹ちゃうやん、ということでパルボIgMを調べたらばっちり陽性でした(お子さんもリンゴ病でした)。妥当な問診と診察、臨床判断を抜きにした検査がいかに人を誤らせるか、という典型だと思います。パルボの抗体は妊婦さん以外には保健適応がない、という理解不可能な規則が感染症王国日本にはありますが、個人的な経験では結構保健は通ってしまうことも多いです。この辺のしくみもよく理解できません。謎の多い感染症王国日本。

 よく用いられているhemagglutination inhibition (HI)法は感度、特異度ともに問題があるため、EIAを用いる方がベターです。これは、後述するIgGについても同様。ちとお値段は高いですが。中和抗体法(PRN assay)は感度も特異度も高いですが手間も時間もかかるので臨床現場ではあまり用いにくいようです。
 
 麻疹のIgGは過去の感染や予防接種の効果を判定するのに用いられます。そのカットオフ値(基準値にあらず)はメーカーによって異なります。しかし、どのくらいの抗体価をもってprotective、麻疹からは安全、とするかについてはあまり確たるデータがありません。実験で検証するのも難しいですしね。専門家の間でも諸説あるようです。カットオフ値を変化させるだけで、ワクチン接種回数が大幅に変わります。本来は1回しか打っていない方は全員ワクチンを打った方がいいのかもしれません。この辺はお金の問題もありますから、議論の余地のあるところです。

 厚労省は高校生や中学生に追加の麻疹ワクチンを打つようプランを立てましたが、例のごとくの広報下手で接種率は低いままです。またまた脱線になりますが、例の採血ホルダーや微量採血器具問題の遠因の一つは厚労省の広報下手のためです。正答率があまりに低い試験問題は不適切問題であり、医療機関の多くが認識していなかった通知は不適切通知なのです。お役人や公務員、独立行政法人の人たちは「通知しといたはず」「HPに載せておきました」という無責任な発言が多くて困ります。博○堂かなにかで研修を受ければいいのに。久しぶりに感染症情報センターのHPを見ましたが、ずいぶん様変わりして見やすくなっていました。しかし医療従事者でない一般の方で、どれだけの人がこのサイトを自主的に見てくれるでしょうか。このサイトは興味関心のある人が検索するには便利ですが、「興味も関心もない」人たちにメッセージを伝えるには、バナーを貼る、yahooやgoogleのHPにリンクをつける、公共広告機構などを使ってテレビCMなどの工夫が必要だと思います。
 2006年にようやく小児の定期予防接種でMRワクチンは二回打ちになりました。日本が麻疹フリー宣言を出すのは一体いつのことでしょう。大学や病院は「国はあまりあてにならない」という事実を受け入れて、自分たちの力で自分たちの組織を守る努力を、しばらく続けなければいけないのです。

写真は、街角で見つけた渋いタイトルの、本屋

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梅毒検査の考え方3


さて、理解を深めるために、実際のケースで見てみましょう。梅毒検査は検査からアプローチせず、患者からアプローチするのが大事だと思います。

77歳女性。大腸癌手術前の梅毒検査でRPR 2.0、TPHA陽性(数字は気にする必要なし)。梅毒的には無症状

解釈と対応
・おそらく過去の梅毒、serofastでRPR低値のまま。もしかしたら過去の梅毒プラス生物学的偽陽性かもしれないが、いずれにしてもやることは同じ。特別なことはしない。

25歳男性。無痛性の潰瘍がペニスにあって受診。RPR陰性、TPHA陽性。

解釈と対応
・おそらく一期の梅毒。TPHA IgMが上がっているところ。ペニシリンで治療。他のSTDも探して、パートナーにも介入しましょう。HIV検査も忘れずに。

44歳男性。発熱、皮疹にて来院。RPR16倍、TPHA陽性

解釈と対応
・おそらく二期の梅毒。治療とその他の対応は一期の梅毒同様に。

56歳男性。「うつ病」という理由で精神科病棟に入院中。肺炎になって一般病棟にて内科治療。ここでRPR16倍、TPHA陽性。

解釈と対応
・うつ病ではなく、神経梅毒を考え、髄液検査。この患者は髄液細胞数33で単球優位、蛋白微増、VDRLは陰性だったが偽陰性と考え神経梅毒としてペニシリン大量投与で14日間治療。劇的に神経症状は改善した。HIVも陽性であった。

44歳女性。発熱と関節炎、皮疹で入院。RPR陽性、TPHA陰性。

解釈と対応
・皮疹があるので二期の梅毒を考えるが、TPHAが偽陰性になるのはこのステージではまれ。この患者はSLEと診断され、RPRは生物学的偽陽性であった。

77歳男性。老人ホーム入所時の梅毒検査でRPR8倍、TPHA陽性。無症状。

解釈と対応
・おそらく潜伏梅毒。神経梅毒をワークアップするかは微妙(患者次第かな、、、)。ペニシリンにて治療し、他のSTDもワークアップ。

どうですか。結構イメージがわいてきましたか。他の検査同様、梅毒検査も臨床的なコンテクストが大事です。RPRとTPHAのプラスマイナスの2x2表ではうまく理解できないことが多いので、ケースで理解することをお奨めします。

梅毒検査の考え方2

 梅毒の検査は主に血清学的に行います。どうしてかというと、T. pallidumは未だにラボでは培養できないのです。T. pallidumの遺伝子構造が分かったのも確か最近の話でした。梅毒のPCRによる診断はまだまだ先の話のようです。
 さて、梅毒の血清学的検査です。この解釈は教科書を何度読んでも難しい。これは検査からアプローチするから、失敗するのです。では、どうしたらよいか。

 いわゆるワ氏反応、Wassermann反応は、ワッセルマンさんにより1906年に発表されました。 UpToDateにはドイツ語のこの論文が引用されていますが、私は読んでいませんし、ドイツ語論文読めません。

Wassermann, A, et al. Eine serodiagnostische reaktion bei syphilis. Dtsch Med Wochenschr 1906; 32:745.

 梅毒の血清学的検査は、梅毒に感染した患者の抗体を見ています。特異的、非特異的な検査と大きく二つに分けられます。

 非特異的な検査には、ガラス板法、RPR法(rapid plasma reagin)、VDRL法(venereal disease research laboratory)などがあります。cardiolipin-cholesterol-lecithin抗原に対する抗体を調べていますが、梅毒以外でも上がります。典型的にはSLEですが、慢性肝疾患や、伝染性単核球症、関節リウマチ、結核、HIV感染などでも上がることがあります。非特異的な検査は定量的な測定が大事です。希釈倍量で表示し、2倍、4倍、8倍と倍数で表示されてきたのでした。通常は8倍以上でもって有意とします(検査の説明書だと陰性が基準値だと記されていますが、臨床的にはそうは判断しません。たぶん、この辺が梅毒検査を間違った方向に判断させている最大の原因です。これはあとで解説します)。ただし、生物学的偽陽性でも高いタイターが出ることがあるので、ここは注意が必要です。治療をすれば下がりますが、ゆっくり年単位で下がるので、次の週に陰性化していなくてもがっかりする必要はありません。
 最近、これが倍数指標ではなく、1.0といった実数表示になりました。沈降反応の希釈倍率を見ていたガラス板法からラテックス凝集反応に変更になったからだそうです。いちおう、メーカーの説明だとこの数値と倍数の数字は同じように扱えばよい、と説明されていますが、はて。
http://www.okayama-u.ac.jp/user/hos/kensa/nvirus/glass.htm

 特異的な検査は、FTA-ABS(fluorescent treponemal antibody absorption)、TPPA(treponema pallidum particle agglutination assay), TPLA (treponema pallidum latex agglutination)、TPHA (treponema pallidum hemagglutination)などがあります。これはT. pallidum 特有の抗原を用いますから、「特異的」であり、陽性であれば梅毒の存在、あるいは梅毒「だった」可能性が高いです。ところが、特異的な検査も実は生物学的偽陽性があり、1% くらいにおきるそうです。ただし、熱が出たとか予防接種を打ったときに起きる一過性のものが多いとか。

Larsen, SA. Syphilis. Clin Lab Med 1989; 9:545.

 特異的な検査は定性的に判断します。陽性か、陰性か、それだけです。何倍、という数字は臨床判断の役に立ちません。治療をしても下がりませんし、下がってもがっかりする必要はありません。これは見なくてもいいのです。

さて、それでは各論です。臨床現場ではどのように検査を使うのか。

 一期の梅毒、下疳(潰瘍ができる)の時期です。このときは血清学的診断があまり役に立ちません。感染初期なので抗体が上がっていないことが多いのです。痛みのない陰部潰瘍ということで臨床診断してしまうことが多いですが、これも非特異的なので教科書ではdarkfield microscopyでスピロヘータを見つけることを推奨しています。これは、病変部を取ってきて、特殊な顕微鏡で光学顕微鏡でも見つけられない小さな小さなスピロヘータを見つける方法です。が、多くの医療機関では用いられていません。技師さんの特殊な技術も必要なようです。私も米国のSTDクリニックで見たことがあるだけです。一期梅毒では血液検査はあまり役に立ちません。
 ところで、一期の梅毒で一番最初に立ち上がってくる抗体は何でしょうか?これは、RPRではなく、特異的なFTA-IgMです。RPR陰性、FTA陽性だと「治療済み」と判断されやすいですが、一期の梅毒でもそうなることがあるのです。あくまでも臨床的なコンテクストが大事で、臨床判断から検査、というアプローチをすれば間違えません。

・一期の梅毒では、梅毒検査はRPR陰性、TPHA陰性が多い。RPR陰性、TPHA陽性(IgMが上がって)のこともある。RPR、TPHAともに陽性のこともときどき。要するにどの結果になっても判断できません。

 二期の梅毒では、ほぼ全例非特異、特異的な検査両方が陽性になります。まれにRPRが陰性のことがあり、これは抗原量が多すぎるために起きるprozone反応のためと考えられています。ただ、経験のある技師さんに聞くと、prozoneの状態では見え方が異なるので「分かる」のだそうです。このような血清は希釈してやると陽性になります。

・二期の梅毒ではRPR陽性、TPHA陽性。

 症状のない梅毒、潜伏梅毒(latent syphilis)では、二期の梅毒同様、RPR陽性、TPHA陽性です。三期も同様ですが、きわめてまれで私は見たことがありません。

 治療効果の判定にRPRは有用です。TPPAのような特異的な検査は役に立ちません。こちらは測らないのがいいのでしょうが、多くのラボではRPRとTPPAを込みにして「梅毒検査」としているので、分けて測れないのですね。フォローの場合は同じ検査・アッセイ系でフォローするのが大切です。患者によって抗体の下がり方は差がありますが、大体1,2年かけて下がりますから、数週間で下がらなくてもがっかりする必要はありません。一期、二期の梅毒は早く下がってきます。潜伏梅毒では遅いと言われています。もし、タイターが上がった場合、治療失敗や再発というより再感染の可能性が高いです。STDは必ずパートナーも診断・治療するのが原則ですね。特異的検査は陰性化しないのでフォローの必要はないですが、UpToDateによると24パーセントで陰性化するそうです。特にHIVの患者さんでは多いそうです。まあ、だからどうだ、ということはないですが。

 HIV感染と梅毒はなかなか診断に影響します。HIV感染があると検査の偽陰性があったり、逆に偽陽性になったりタイターが高くなったり不思議なことが起きるのです。なにしろ、梅毒の血清検査は抗体検査で、抗体産生はB細胞の機能に影響されています。HIV感染者はT細胞の異常だけではなく、B細胞も異常なのですね。FTA-ABS偽陰性の報告もあり、HIV患者の梅毒検査の解釈はとても難しいと言われる所以です(治療も難しいですが)。

・HIV患者は全員梅毒検査を
・しかし、その解釈は結構難しい。
・HIV感染があると神経梅毒の合併も多い。血清検査が陽性なら髄液検査を。

 神経梅毒は一期、二期、三期のいずれのケースでも合併する独立した病態です。髄液検査で診断しますが、その解釈は結構難しいです。
 まず、血清RPR32倍以上では神経梅毒の可能性が増します。HIV感染がなければリスクは10倍、HIV感染があっても6倍に増えるそうです。
CID 2007; 44: 1222
JID 2004; 189: 369
 HIV感染があり、CD4が低いと神経梅毒の可能性は高くなります。細胞数、蛋白、髄液VDRLなどどれが異常であっても神経梅毒と判断することが多いです。髄液VDRLは特異的ですが感度が低い(30%くらい!)ので、陰性は神経梅毒否定ではありません。細胞数は単球優位で10−400/uLというチョロ上がりのことが多いです。蛋白もチョロ上がり。髄液のFTA-ABSは感度が高く、除外に役に立つと言いますが、あまり用いられることはありません。

・神経梅毒では血清RPR陽性(高値のことが多い)、TPHA陽性。髄液検査は様々。

参考 Hicks CB. Serologic testing for syphilis. UpToDate 16.1. last updated December 8, 2006

さて、理解を深めるために、実際のケースで見てみましょう。梅毒検査は検査からアプローチせず、患者からアプローチするのが大事だと思います。

梅毒検査の考え方1

梅毒を制するもの、医学を制す

He who knows syphilis, knows medicine.

だったかな。そういったのはウイリアム・オスラーだったと思います。頭の先からつま先まで様々な症状を示す梅毒はまさに内科の王様と呼んでもよいでしょう(もっとも、HIVもこの点では負けていませんが)。

ところが、その内科の王様梅毒があまりきちんと勉強されていません。感染症は甘く見られているためです。ハリソンの内科学ではもっともページが割かれている感染症領域ですが(本当です)、その感染症が一番ほったらかされているのです。

特に問題なのは検査です。検査の解釈がしばしば間違っています。検査の適応もずいぶん間違っています。そして、検査の部分で間違っているので、その結果治療の部分でも間違ってしまうのです。治療薬の使い方も検査に基づいて決断されているためです。要するに何から何まで間違ってしまうのです。

検査の解釈の間違い、というのは、換言すればアセスメントの構築の方法論が根本的に間違っている、ということになります。が、ここまでいくとちゃぶ台ひっくり返し状態になって収拾が付かなくなりますから、ここではほったらかしておきましょう。

では、梅毒検査をどう考えましょう。

まず、梅毒検査が最も多く行われているのは、どういう状況でしょう。これは施設間でも違いがあるでしょうが、たぶん、この2つがツートップ、いや、トップツーでしょう。

1.術前に何となく
2.とりあえず、何となく

どうです?皆さんの勤める病院でも五十歩百歩ではないでしょうか。

しかし、全ての検査について言えることですが、本来、検査とは
・その疾患を疑っているとき
検査すべきなのです。従ってこの場合では、
・臨床的に梅毒を疑っているとき
ということになります。

決して「なんとなく」「とりあえず」という理由で梅毒検査を行ってはいけません。そして、術前のルーチン梅毒検査は不要です。これから、その理由を説明します。
 黒澤明の「静かなる決闘」という映画があります(岩田未見)。三船敏郎演じる医師が針刺しで梅毒になって悩むという映画だそうです。黒澤映画って男女関係の描き方が古いなあ、とよく思いますが、それはまた別の話。 
 しかし、針刺しによる梅毒の感染はまれです。特に無症状(潜伏梅毒、latent syphilis)の場合はほとんどおきないと考えられています。だから、無症状の患者の梅毒検査をルーチンでやることは、外科医の防御には役に立たないのです。

ただし、有症状の場合は、感染の報告はあるようです。下記は神経梅毒患者からの針刺し感染です。診断の付いていない神経症状、皮疹、熱などがあれば要注意。

Franco A et al. Clinical case of seroconversion for syphilis following a needlestick injury: why not take a prophylaxis? Infez Med. 2007 Sep;15(3):187-90.

 でも、術前にそういう症状がある患者ってまれですし、多くの場合は診断が付くまでオペ延期になります(例外もあるでしょうが)。まれなものはまれ、一般論と例外論は区別するのが臨床現場での大事な態度です。逆にいうと、針刺しで感染する「可能性」のある病原体はもっともっとあるのです。パルボウイルスとか、マラリア原虫とか、クロイツフェルツヤコブ病の原因と考えられている(異論もありますが)プリオンとか。でも、こういうのを全部、全ての患者にオペ前に調べるのは、ややナンセンスですよね。
 針刺しで(起こったときに)調べるべきはB型肝炎、C型肝炎、そしてHIVです。これらが針刺し感染の大多数を占めているのです。HIVは1985年から1999年までに米国で136ケースのHIV感染を起こしたかも、と見積もられています。HBVにいたっては、米国では1995年だけで800人の感染を起こしたそうです。日本だと予防接種を打っていない医療者も多いですから、そのリスクはもっと高いかもしれません。HCVについては正確な数は不明ですが、毎年米国で何千人という規模で感染を起こしているようです。

NIOSH. ALERT. Preventing Needlestick Injuries in Health Care Settings. 1999
http://www.cdc.gov/niosh/2000-108.html#1

 HBV, HCV, HIVに対する術前ルーチンワークアップの是非についてはいずれ機会を見て議論しますが、少なくとも、梅毒についてはルーチンではやる必要はないと私は考えます。

さて、これが原則です。この原則を理解できれば、現在病院で行われている梅毒検査はほとんど不要だと言うことが分かります。

梅毒の検査はあくまで臨床的に梅毒を疑った場合にやりましょう。原因不明の皮疹に「とりあえず」ステロイドを塗布したり抗ヒスタミン薬を出す前に、梅毒検査を考えましょう。原因不明のせん妄や認知障害。梅毒を考えましょう。こういうケースで意外に検査してないんだよな、まったく。

さて、梅毒検査の解釈は結構面倒です。その話を次回からしましょう。

CRPは役に立つ?11

前にもちょっとネタになりましたが、2008年のAmerican Journal of Medicineには、市中肺炎の重症度とCRPの値が相関する、という論文が載っています。

Chalmers JD, Singanayagam A, and Hill AT. C-reactive protein is an independent predictor of severity in community acquired pneumonia. Am J Med 2008;121:219-225.

私は、かねがねCRPと市中肺炎の重症度とは相関しない、PSI(pneumonia severity index)にもCURB-65にもA-DROPにもそんなのは入っていない、と説明してきました。これを反証するデータだと思います。

まさにカール・ポパーのいうところの反証主義でして、一つでもある仮説を否定するデータを示せば、その仮説の真理性は失われるのでした。科学の常でありますし、そのように受け取り、飲み込むしかないように思います(これをまた反証するデータが出ない限り、ですが)。

ところが、この論文を良く読んでみると、実はCRPは予後に対する感度はPSIやCURB-65とどっこいどっこいなのですが、特異度はずっと低いことが分かりました。すなわち、臨床症状や既往歴から得られるPSIやCURBー65を無視し、CRPだけ見ていると患者を過大評価してしまう、ということです。余計な入院や広域抗菌薬の使用が徒に増えてしまうかもしれません。結局のところ、この論文は驚きを持って迎えたのですが、私の今のプラクティスそのものには変容をもたらすことは無いようです。多くのオリジナルな論文がそうであるように、です。

という内容のレターをAJMに投稿したらアクセプトされました。12月号掲載ですので内容は「今は」ここではご紹介できませんが(私も最近まで知りませんでしたが、ほとんどの外国の科学雑誌の論文は、「著者が」ウェブ上で公開することは著作権上問題ないのだそうです)、発表されたら読んでみてください。

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