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感染症

昨日のHIVカンファ

サックス先生の2010年のホットな研究がアップされている。短い時間でさらりと要約されている。本当にスマートな人ですね。

http://www.medscape.com/viewarticle/733775?src=mp&spon=1

サックス先生には言及してもらえなかったが、昨日のカンファで取り上げられたのは、CD4100−200でST予防は止めてもよいか?というもの。興味深い。

Mussini, Cristina et al. 2003. “Discontinuation of secondary prophylaxis for Pneumocystis carinii pneumonia in human immunodeficiency virus-infected patients: a randomized trial by the CIOP Study Group.” Clinical Infectious Diseases: An Official Publication of the Infectious Diseases Society of America 36:645-651. 


あと、エイズ学会のデータである大きな病院でPCPに対する治療で21日間STを完了できたのが2割しかなかったのが話題になった。古典的なスタディーでは「ドロップアウト」が2割。まあ、スタディー環境とリアルな環境は同列には扱えないが。

Hughes, W et al. 1993. “Comparison of atovaquone (566C80) with trimethoprim-sulfamethoxazole to treat Pneumocystis carinii pneumonia in patients with AIDS.” The New England Journal of Medicine 328:1521-1527. 

うちのデータもそろそろまとめなければ、、、という話でした。






ややこしいQFTの呼称

レジデントノートにクオンティフェロンについて書いたが、名称はややこしくてわかりにくい。

従来のQFT(QFT-2G)はESAT-6とCFP-10という2種類の抗原を用いて検査していた。近年、これに新たな抗原TB7.7を加え、検体処理実務も容易になったQFTゴールド(QFT-G)が発売された。両者をIGRAs(Interferon-Gamma Release Assays)とも呼ぶ。

 さらにややこしいことに、海外の文献に出ているQuantiFERON-TB Gold,
略してQFT-Gというのが日本におけるQFT-2Gのことである。QuantiFERON-TB Gold In-Tube test (QFT-GIT)というのが日本におけるQFT-Gである。なぜin-tubeというかというと、従来ウェル上で行っていた検査をすでに抗原の入ったチューブの中でやっているから、という分かりやすい理由のためである。米国ではこの他にT-SPOT.TB test (T-Spot)というIGRAも用いられていてややこしいことこの上ない。文献を吟味する際にこんがらがらないように注意しよう。以下の議論は日本での呼称を用いて行う。

日本の名称                 海外での名称
クオンティフェロン(R)TB-2G(QFT-2G)   QuantiFERON-TB Gold(QFT-G)
クオンティフェロン(R)TBゴールド(QFT-G)  QuantiFERON-TB Gold In-Tube test(QFT-GIT)

 さらにさらにややこしいことにこのQFT-G(QFT-GIT)にQFT 3Gという俗称がついて回っている。ネットで探すと公式な文書にもこの3Gが使われていることもあって、ますます分からない。日本ビーシージーに確認したが、これは正式名称ではない。どうも「あの」電話のイメージでついた名前だろうか(想像です)。あの電話に倣って、早く「4」を出すのが一番すっきりする方法(かな)。

というわけで、今度出るレジデントノートの原稿には一部間違い(本当は間違いではないのだけれど、間違いではないのか、と突っ込まれる恐れのある部分)がある。あらかじめご報告し、言い訳させてください。

無駄、無駄、無駄

IDSAのケースディスカッションはいつ見ても面白い。良いケースが多い。かといってパネリストがティアニーのように爆発的に次元の違う人たちではないのも良い。鑑別診断は妥当だし、一緒に楽しむことができる。カッティング/エッジのリサーチマターは「へえ、そうなんですか」と追随するより他ないが、こと診断に関する限り、僕ら臨床屋はどんな学会に行っても萎縮する必要がない。こういうのを日本の学会でもやればよいのに、ととても思う。

日本の学会といえば、IDSAと時を同じくして化療学会、感染症学会の地方会や渡航医学会が行われている。短見だと思う。これは「日本か、アメリカか」というヘゲモニーの問題ではないのだ。ぶっちゃけ、IDSAのようなレベルの高さは日本の学会には見いだせない。このレベルの高さをぜひ、一人でも多くの日本人に体感してもらいたい。それがレベルアップを生むのである。アメリカの医療については批判すべき点も多々ある。しかしそれは、見てから初めて言えることなのだ。今回、IDSAに日本人の若手医師がたくさん参加していることは興味深く思ったが、逆に例年に比べて年寄りたちがあまりに少なかったことも興味深かった。日本の地方会とかに出ていたのかもしれない。

日本の学会はあきらかにIDSAより貧弱である。ならばなぜ地方会をバカみたいに何度も繰り返すのか。年に1回感染症学会、化療学会、臨床微生物学会と合同で(あるいは環境感染学会も一緒でいいが)総会をやればよいではないか。学会長をみだりに増やして喜んでいる場合ではない。演題も吟味して、いまより半分かそれ以下にすれば良いではないか。各学会は質の悪いポスターに満ちており、それが参加へのインセンティブをさらに下げている。自らが自らの質の低下を望むとは、どういう短見だろう。

リソースが少ないときに、なぜ無駄なことを望んでするのか。これは心理学的、社会学的には興味深いテーマであるが、現場の臨床屋としてはうっとうしいことこのうえない。地方会を乱発するよりは、せめてアジアの各国が日本の学会に参加して勉強したい、と思うような(ぼくらがIDSAの価値を位置付けするような)学会にすべきである。もっと広くて深い視野を持つべきである。

久々のIDSA

久々にIDSAに来ている。何年ぶりだろ。

今年はバンクーバー。人に会うつもりでトロントに行き、それが思わずかなわず、仕方ないので紅葉を見てからバンクーバーへ。気温は低いが思いの外、寒くはない。

最近、こういう学術集会でのお勉強をしていなかったので、大変に勉強になっている。毎年来る必要はないけど、ときどき来て知識のブラッシュアップをしておくことは大切だと思った。

確かに、最近はウェブで学会のハイライトをやってくれるのでお金と時間をかけてアメリカの学会に行く意義は薄れている。驚愕の新事実が飛び出す可能性も小さい。しかし、ぼんやりと把握していたことをしっかりと理解し直したり、周辺知識を追加したりするには有用だ。インタラクティブセッションは特に面白い。たとえば、CLSIの基準変更のいきさつ(変更そのものではなく)を勉強したり、FDAのそれとの違いを学んだりするのは、こういう場でないと難しい。

世界で一番膝の整形手術が美味いのは、北アイルランドの整形外科医

というジョークが、僕がイギリスにいた1991年にはあった。そのこころは、当時IRAのリンチの仕方が膝を銃で撃ち抜くからで、膝の手術をもっともたくさんやっているのがアイリッシュの整形外科医というわけだ。

アナロジーとして、幸か不幸か、僕がいる神戸の診療現場では耐性HIVが問題になることがほぼ皆無である。耐性に悩まされているタフな現場でHIVをやっているひとがこの話題に強い。なので、ときどきこういう「お勉強の場」でブラッシュアップしておかないと忘れてしまう。最新のテクノロジーの勉強も含め、それはとても役に立った。生のポール・サックスも拝見できてよかった。知識が頭からあふれ出すようなタイプで、非常に賢い人だと思った。あと、曖昧さを受け入れる度量もあり、がちがちのガイドラインや研究結果主義者でないことも素晴らしい。研究をどっぷりやっているから「こそ」研究のキャビアをよく心得ているのだろう。マルチプルチョイスでも複数アンサー有り、というのをよく理解していた。先日TBLを勉強したアメリカのファクルティーがシングル/ベスト/アンサーにこだわっていた(それは医療の現場ではほぼ皆無である!)のと対照的だ。どこにいっても優秀なドクターは本当に優秀で、そうでないひとはそれなりに(ふるい)なのだ。

内科研修医時代の懐かしいアテンディングに再会したり、この「ばったりであって」も学会の魅力だ。一番いけていなかった研修医時代を知るアテンディングに、今もまだ「生きている」ことを知らせることには意味がある。そういえば日本人が多くなったなあ。僕より年下で大活躍している人がたくさんいて、本当に心強い。がんばって早く僕らを追い抜いて、のんびり引退させてくださいね。

ポスターもさらりと見たが、日本の学会よりはずっとレベルが高く(日本は演題を半分にして良いから、もっと質を確保すべきだ。都会の大学病院の初期研修医と同じロジックで失敗している)、かといって全然手が届かないほどべらぼうにすごいのは少なく、ほどよくエンカレッジしてくれる。研究も頑張りましょう、と言ってくれているようだ。日本からの発表も多く、亀田からは山藤、山本、そして藤井(聖マリで藤谷先生と)と3つも出していた。他にも京都とか和歌山とか、いろいろなところから出ているようだ。在アメリカの日本の先生たちも結構発表している。臨床研究をがんばろうという気運が僕らが研修医だった頃より高まっている。僕らが研修医の頃は、研究なんかやる研修医は少し軽蔑の対象だったが、こういう空気を先行する成功者が前例を打破することで払拭してきた。沖縄にいたころの清山先生とかが実例だし、筑波の徳田先生がよいロールモデルになっている。名郷先生の本も後押ししている。臨床か研究か、ではなく臨床も研究も、だ。「あれか、これか」のロジックはことごとく、あらゆるところで破綻しているように僕には思える。「あれも、これも」だ。

今年は国際学会(マイアミ)にポスターひとつだったので、来年もどこかに何かを出したいと思う。聖路加の古川先生みたいに毎年出すことをノルマにするのは、本当にすごいと感嘆する。真似できへん。

久々のIDSA

久々にIDSAに来ている。何年ぶりだろ。

今年はバンクーバー。人に会うつもりでトロントに行き、それが思わずかなわず、仕方ないので紅葉を見てからバンクーバーへ。気温は低いが思いの外、寒くはない。

最近、こういう学術集会でのお勉強をしていなかったので、大変に勉強になっている。毎年来る必要はないけど、ときどき来て知識のブラッシュアップをしておくことは大切だと思った。

確かに、最近はウェブで学会のハイライトをやってくれるのでお金と時間をかけてアメリカの学会に行く意義は薄れている。驚愕の新事実が飛び出す可能性も小さい。しかし、ぼんやりと把握していたことをしっかりと理解し直したり、周辺知識を追加したりするには有用だ。インタラクティブセッションは特に面白い。たとえば、CLSIの基準変更のいきさつ(変更そのものではなく)を勉強したり、FDAのそれとの違いを学んだりするのは、こういう場でないと難しい。

世界で一番膝の整形手術が美味いのは、北アイルランドの整形外科医

というジョークが、僕がイギリスにいた1991年にはあった。そのこころは、当時IRAのリンチの仕方が膝を銃で撃ち抜くからで、膝の手術をもっともたくさんやっているのがアイリッシュの整形外科医というわけだ。

アナロジーとして、幸か不幸か、僕がいる神戸の診療現場では耐性HIVが問題になることがほぼ皆無である。耐性に悩まされているタフな現場でHIVをやっているひとがこの話題に強い。なので、ときどきこういう「お勉強の場」でブラッシュアップしておかないと忘れてしまう。最新のテクノロジーの勉強も含め、それはとても役に立った。生のポール・サックスも拝見できてよかった。知識が頭からあふれ出すようなタイプで、非常に賢い人だと思った。あと、曖昧さを受け入れる度量もあり、がちがちのガイドラインや研究結果主義者でないことも素晴らしい。研究をどっぷりやっているから「こそ」研究のキャビアをよく心得ているのだろう。マルチプルチョイスでも複数アンサー有り、というのをよく理解していた。先日TBLを勉強したアメリカのファクルティーがシングル/ベスト/アンサーにこだわっていた(それは医療の現場ではほぼ皆無である!)のと対照的だ。どこにいっても優秀なドクターは本当に優秀で、そうでないひとはそれなりに(ふるい)なのだ。

内科研修医時代の懐かしいアテンディングに再会したり、この「ばったりであって」も学会の魅力だ。一番いけていなかった研修医時代を知るアテンディングに、今もまだ「生きている」ことを知らせることには意味がある。そういえば日本人が多くなったなあ。僕より年下で大活躍している人がたくさんいて、本当に心強い。がんばって早く僕らを追い抜いて、のんびり引退させてくださいね。

ポスターもさらりと見たが、日本の学会よりはずっとレベルが高く(日本は演題を半分にして良いから、もっと質を確保すべきだ。都会の大学病院の初期研修医と同じロジックで失敗している)、かといって全然手が届かないほどべらぼうにすごいのは少なく、ほどよくエンカレッジしてくれる。研究も頑張りましょう、と言ってくれているようだ。日本からの発表も多く、亀田からは山藤、山本、そして藤井(聖マリで藤谷先生と)と3つも出していた。他にも京都とか和歌山とか、いろいろなところから出ているようだ。在アメリカの日本の先生たちも結構発表している。臨床研究をがんばろうという気運が僕らが研修医だった頃より高まっている。僕らが研修医の頃は、研究なんかやる研修医は少し軽蔑の対象だったが、こういう空気を先行する成功者が前例を打破することで払拭してきた。沖縄にいたころの清山先生とかが実例だし、筑波の徳田先生がよいロールモデルになっている。名郷先生の本も後押ししている。臨床か研究か、ではなく臨床も研究も、だ。「あれか、これか」のロジックはことごとく、あらゆるところで破綻しているように僕には思える。「あれも、これも」だ。

今年は国際学会(マイアミ)にポスターひとつだったので、来年もどこかに何かを出したいと思う。聖路加の古川先生みたいに毎年出すことをノルマにするのは、本当にすごいと感嘆する。真似できへん。

MRICに投稿した文章です。

院内感染対策は専門性、総合力、そしてビジョンの問題

岩田健太郎
神戸大学医学部附属病院感染症内科 

 2010年9月9日の産経新聞によると、厚労省は「帝京大病院の多剤耐性アシネトバクターによる院内感染問題や国内で新型の耐性菌が検出されていることを受け」、多剤耐性菌の発生動向把握のための具体策の検討を始めたという。
 厚労省が耐性菌の問題に注目することそのものには、特に問題はない。問題は「発生動向把握」のために策を練るという目的にある。
 我が国の奇妙なところは、何か問題が生じると早急に何らかの対策を立てなければならない、と浮き足だってバタバタと走り出してしまうことにある。感染症対策、高齢者の戸籍問題など、ほとんど全ての問題が同じパターンで、同じ構造で、毎度毎度繰り返される。騒ぎ立て、「何とかしろ」というマスメディアとそれに呼応して政治的に正しく振る舞おうとする政治家が、「早くしろ、対策を立てろ」と急き立てるのである。我が国の官僚は常に多忙であるが、その割に生産性が低いのはこのような脊髄反射的な仕事に追われているためである。
 すでに多剤耐性アシネトバクターは全国の多くの医療機関で検出されていることが分かっている。同等の耐性を持つ緑膿菌も、その他のグラム陰性菌も普遍的に日本中の病院に存在することは我々専門家は「昔から」分かっている。報じられたNDM-1産生菌についても、特に他の耐性菌と本質的に異なったり、対策に違いがあるものではない。つまり、日本の耐性菌問題は何年も何十年も恒常的に継続されている慢性的な問題なのである。慢性的な問題に可及的速やかな対策をとる根拠は二つしかない。メディア対策と政治的自己満足である。そこでは病院の医療者やそのユーザーたる患者の利益はまったく顧慮されていない。
 なぜ、耐性菌の動向を把握するのか。この質問を先日、厚労省結核感染症課の官僚に尋ねたが、「それは耐性菌の状況を把握して情報提供し、耐性菌対策の助けにするためだ」と立て板に水のような「模範解答」が返ってきた。しかし、そのような机上の観念と現実は(他の多くの医療行政がそうであるように)かなりの乖離がある。
 すでに耐性菌の報告システムは日本に存在している。例えば「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(いわゆる感染症法)」では、1999年より耐性緑膿菌の定点報告を義務づけており、その発生動向を調査している(2003年より5類感染症)。
 しかし、この報告が医療現場の助けになることはほとんどない。なぜなら、耐性菌の情報とは「全国がどうなっていますよ」という情報ではなく、「うちの病院ではこうですよ」「私のいる病棟ではこうですよ」という情報こそが大切だからだ。こういう情報を我々はローカルな情報と呼ぶ。だから多くの病院では「アンチバイオグラム(病院や病棟における耐性菌情報)」を作成して、実地診療に役立てている。
 では、行政として耐性菌の発生動向を把握する意味はないかというとそんなことはない。多剤耐性緑膿菌(MDRP)は日本で承認されている抗菌薬が全く効かない耐性菌である。したがって、その発生動向を調査すれば日本でこの菌が普遍的に検出されているリアルな問題であることが即座に理解できる。もし耐性菌情報を現場の医療に活かそうと官僚が本気で考えているのなら、「これではいかん」とMDRPの治療薬の緊急承認や普及に尽力を尽くすのが筋であろう。
 しかし、厚労省はこれまで「耐性菌対策と医薬品承認・審査は担当が違う」「製薬メーカーから申請が来ていない」という誠に「官僚的な」言い訳で知らんぷりを決め込んでいた。対策もとらず、ただ病原体を届け出させて数を数えているのなら、これは子どもの夏休みの絵日記と同じである。「今日はとんぼを2匹見つけました」と日記に書くのと構造的に同じだ。
 得られた情報に呼応する対策が講じられない限り、病原体の「届け出」には意味がない。それは「対策をとっていますよ」というポーズ、アリバイ作りにしかならない。あるいは研究者の研究材料にしかならない。現場の医療者は、そして患者はひとつも得をしないのである。
 感染症対策の先進国であるオランダでも届け出感染症は存在する。ただし、「届け出することで対策をとり、公衆衛生的な介入をかけ、そして減らすことが可能な」感染症のみが届け出義務を有している。しかも、多忙な医療者の便宜を図り、報告は電話でもファックスでもメールでもOKである。これに対し、日本の感染症では多くの場合、「届けて何をするか不明瞭な感染症に」報告義務を課している。例えば、「急性ウイルス肝炎」には届け出義務があるが、急性肝炎を報告しても肝炎は絶対に減らない。もしウイルス性肝炎を本気で減らしたいのであればキャリア(ウイルスを有するが症状のない場合)の数を調べなければならないのだ。日本の届け出用紙は記載事項が多く、これも現場の医師には評判が悪い。デング熱の届け出をするのにどうして患者の住所や氏名が必要なのか。ヒトーヒト感染をしないデング熱の場合、発生数さえ把握できていれば感染対策上問題はない。感染対策を何故やるのか、という根源的な理由を理解しないまま多くの保健所は「報告を受けたので」という理由で患者の家に電話をかけて「情報収集に」あたっている。対策に寄与しない不要な個人情報の漏洩である。
 このように、日本では感染症発生動向把握に対するビジョンやプリンシプル(原則)がないのである。動向を把握してどうしたいのだ?という目標がないのである。ただ場当たり的にメディアに呼応し、それを報告させて対策をとっているふりをする。これが重なって現場はますます疲弊するという構造である。
 繰り返すが、日本の耐性菌問題は昨日今日起きた緊急の問題では決してない。長い間、我々専門家が必死で取り組んできた慢性的な問題である。プロが長い間取っ組み合ってきた問題であるということは、この問題に「イージーなソリューション(解決策)が存在しない」ことを明白に示唆している。イージーなソリューションがない問題に、安直な届出制度を作ることで「解決してしまったふり」をしてはならない。
 耐性菌の問題は、耐性菌の数を数えたからといって解決するわけではない。検査の方法、日常の抗菌薬の適正使用、病棟における感染対策、そして耐性菌感染症の治療戦略など、たくさんの施策を重層的に駆使して対策する。病院の総合力が大切なのである。ならば厚労省がもっとも心を砕くべきは病院の総合力アップのための施策である。それは病院で感染症のプロがフルタイムでコミットしやすい施策であり、病棟が安全に運用されるための施策であり、抗菌薬が適正に使用される施策でもある。
 一方、病院は「耐性菌対策のため」に存在するわけではない。過剰な耐性菌対策はコストもかかるし日常診療を圧迫する。日常診療を円滑に進めつつ、適切な感染症対策を継続する「塩梅」が大事になる。塩梅、微調整が必要となる問題については専門家がよくよく現場を俯瞰して、その場その場の「妥当な振る舞い」を決めなければならない。中央が一意的に計画書をたてるような対策法は、「塩梅」の重要な院内感染対策にはそぐわない。ことあるごとに厚労省や保健所が調査に入るような「労多くて益少ない」対策だけはごめん被りたい。
 厚労省は何も慌てる必要はない。時間をかけるべきである。まずは多種多様な感染症の専門家の意見をじっくりと時間をかけて聞いてほしい。そしてなによりもまず最初に、我々はどのような院内感染のあり方を目指しているのか、ビジョンを明確にすべきである。病院が病院である限り院内感染はなくならない。なくならない、という前提でどこまでの対応が妥当なのか「塩梅」探しの模索をすることこそがビジョンの追求である

小児における血液培養

・3歳以下では菌血症の頻度が高く、適応は高い。
・感染巣が明確でないことが多く、その場合にも必要。
・小児における血液培養の適正な血液量とセット数
       総血液量ml  採血量ml セット数 総採血量ml 採血量/総血液量の割合(%)

体重1kg以下50−99   2       1     2        4
1.1−2    100−200 2       2     4        4
2.1-12.7    >200    3?     2     6        3
12.8-36.3   >800    10      2     20       2.5
>36.3kg   >2200   20      2      40      1.8

ポイントは、血液培養は体重1kg以下でも必要なこと、1.1キロあれば2セット必要なこと、36.3kgより大きければ大人と同じ採血量(40ml)なことである。
・採血量が小さい場合、嫌気ボトルは必要ないことが多い。
・例外は、口腔内感染、慢性副鼻腔炎、脳膿瘍、ヒト咬傷、レミエール症候群、腹腔内感染、肛門周囲の蜂窩織炎、潰瘍、ステロイド高容量服用中の好中球減少時発熱(腹部所見がマスクされるリスクあり)、前期破水18時間以上、母胎絨毛羊膜炎。
・抗菌薬が入る前に2セット。1セットとって抗菌薬入れて、次の日もう1セットはダメ。

参考 齋藤昭彦 ONE POINT MEMO 臨床検査ひとくちメモ モダンメディア 56巻4号 2010

神戸大学感染症内科短期研修の感想

高知大学の荒川先生(感染制御部の荒川教授の息子にあらず)からです。丁寧な報告、ありがとうございました。

http://www.medical-bridge.jp/voice.html?tvid=12820103918967

みなさんも是非ご参加ください。いくつか事業があります(仕分けられなければ)。それ以外の地域からも、研修は可能です。ご相談ください。

http://www.medical-bridge.jp/index.html
http://www.gp-renkei.jp/

アシネトバクター感染症治療法(総説)

http://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/653120

こんなのがあると教えてもらいました。投与量も書いてあってわかりやすいですが、エビデンスには乏しいです。

ICTの知っておきたい多剤耐性アシネトバクター

メディカ出版INFECTION CONTROLに依頼された原稿です。ご好意で今回特別にブログに掲載を許可していただきました。メディカ出版さんの寛容なるご判断にこの場を借りて感謝申し上げます。というわけでみなさん雑誌も買って読んでくださいね。転載自由です。

http://www.medica.co.jp/magazine/view?id=1981


ICTの知っておきたい多剤耐性アシネトバクター

 

岩田健太郎1、阿部泰尚2、八幡眞理子2、吉田弘之2、李宗子2、荒川創一2

 

1.神戸大学病院感染症内科

2.神戸大学病院感染制御部

 

 アシネトバクター(Acinetobacter) 属はブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌です。広く自然界に存在すると考えられていますが(異論もある)、特に病院内環境で見つかることが多いとされています。床、病室のカーテンなどの環境や人工呼吸器、除細動器といった医療機器、医療者の皮膚や便からも分離されることがあります。医療者の手を介して院内伝播することもありますが、健常市民から本菌を検出することは比較的少ないことがわかっています。アシネトバクター属にはいろいろな種類がありますが、特に人に感染症を起こしやすいのはAcinetobacter baumanniiです。

 アシネトバクターの市中感染は東南アジアのような赤道周辺の国などで確認されることがありますが、我が国ではまれです。つまり、本菌感染は日本ではほとんどは(急性期病院の)医療関連感染として認められます。ただし、院内でアシネトバクターを分離したとしても、多くの場合は定着(コロナイゼーション)や汚染(コンタミネーション)です。つまり本菌が分離されたとしても必ずしも治療する必要はないので、臨床的な治療要非の吟味が重要になります。

 このように本菌が感染症を起こす懸念は高くないのですが、ひとたび発症すると重症化しやすいのが特徴です。人工呼吸器関連肺炎(VAP)、血流感染(BSI)が特に多く、その死亡率はある報告では50%程度とかなり高いようです(Dijkshoornら)。その他、本菌により皮膚軟部組織感染症、尿路感染症、外傷後や術後の創部感染、二次性髄膜炎など様々なタイプの院内感染を起こすことが知られています。アシネトバクター感染症はICUなどの重症患者のいる病棟に発生することが多く、特にカテーテルなどデバイスが種々挿入されている患者、多種抗菌薬投与歴のある患者などがハイリスクです。

 多剤耐性アシネトバクター(以下、MDR-AB)を定義する世界的な基準は示されていませんが、日本では(これも我が国独自に定義した)多剤耐性緑膿菌に準じてカルバペネム、アミノグリコシド、そしてフルオロキノロンの3系統の抗菌薬に耐性を示すものを指すことが多いといえます。アメリカなどでは汎耐性アシネトバクター(panresistant Acinetobacter)という用語が使われることもあります。

 本耐性菌は1990年代前半からアメリカなど各国で問題になっていましたが、日本では見つかっていませんでした。しかし平成21年(2009年)1月に福岡の大学病院で、その後東京都の大学病院でもMDR-ABが分離され、にわかに注目を集めるようになりました。

 アシネトバクターはペニシリンや第一世代、第二世代のセファロスポリンには自然耐性がありますが、しばしばその他のβラクタム、アミノグリコシド、フルオロキノロン、テトラサイクリンなどにも耐性を獲得しています。また、メタロ・β−ラクタマーゼを含む多様なβ−ラクタマーゼを産生する本菌も見つかっていますし、β−ラクタマーゼ産生以外の耐性機序を持つことも多く、様々な抗菌薬に対して同時耐性を示すことがあります。ただし、その耐性メカニズムについてはまだ不明な点も多いといわれています。最近ではポリミキシン(ポリミキシンB、コリスチン)やチゲサイクリン耐性菌も見つかっています。

 上述したようにアシネトバクター感染症は重症化することが多く、この菌の治療については(耐性の程度にかかわらず)、感染症の専門家が参加するのが望ましいと考えます。

 アシネトバクター感染症の治療は、もし感受性があればアンピシリン・スルバクタム(アシネトバクターに対してはスルバクタムの抗菌効果が高い)、アンピシリン・スルバクタム耐性であればカルバペネムなどを最大量用います。

 

治療例(成人、腎機能正常な場合)

アンピシリン・スルバクタム 点滴静注 1回3g 1日4回  14日間

上記薬剤に耐性時

メロペネム 点滴静注 1回1−2g 1日3回 14日間

 

 実際にはMDR-ABの場合、日本における既存の抗菌薬がすべて効かない可能性が高いと云わざるをえません。未承認薬(本稿執筆時点)であるポリミキシン(ポリミキシンBおよびコリスチン=ポリミキシンE)やチゲサイクリンを本菌に用いることが多いのですが、チゲサイクリンは治療途中で耐性獲得した例もある上に、本菌に対する臨床治験が十分ではありません。コリスチンなどのポリミキシンは本菌感染症に対する実績がありますが、腎不全などの合併症が懸念されます。ただし、以前言われていたほどこの合併症は多くないことが近年の研究で明らかになってきています。神戸大学病院感染症内科では海外から輸入したポリミキシンBをアシネトバクターやその他の多剤耐性グラム陰性菌感染症の治療に用いています(下記参照)。その他、イミペネム・シラスタチンとアミカシン、コリスチンとリファンピンといった併用療法も提唱されていますが、データに乏しいのが現状です。

 

 感染管理については国際的に合意された方法があるわけではありません。病院の規模や患者数によっても対応法は異なるでしょう。以下は筆者の私見です。

 まず、MDR-ABでない、すなわち感受性のよいアシネトバクターについては標準予防策以上の特殊な感染対策は必要ないと考えます。

 MDR-ABの場合、感染の有無にかかわらず1回でも患者から分離されたら速やかに厳重な感染対策を行うべきと考えます。厳密な標準予防策および接触感染予防策を適用し、可能であれば個室管理とします。空気感染予防策までを示唆する専門家もいますが、この必要性は明確ではありません。筆者(岩田)が米国で本菌感染症を経験した際は病棟の一時閉鎖をする非常に強い対策をとりましたが、通常医療の維持とのバランスを考え、どうしても必要な場合にそのような対策も検討します。医療器具(聴診器やモニターなど)はその患者専用とし、退室後はデバイス、部屋共にアルコールなどで消毒するべきです。次亜塩素酸の使用を示唆する研究もあります(Dentonら)。

 急性期病院では。複数の患者からMDR-ABが検出されたら周辺患者の保菌の有無を、咽頭スワブ、肛門スワブおよび尿の培養により調査するアクティブ・サーベイランスや環境の拭き取り培養などを行い、感染経路や拡大範囲の精査を行います。

 MDR-ABの除菌は極めて困難と考えられます。アシネトバクターそのものは健康人には重篤な感染症を起こす懸念は低いため退院先、そしてそれが自宅でなく長期療養施設などであっても特殊な感染対策をとる必要はないと考えます。これを理由に受け入れ拒否をする必要はありません。

 MDR-ABは本稿執筆時点で感染症法の規定する届け出義務のある病原体ではありません。しかし、平成21年の厚生労働省の通知により保健所への届け出が依頼されているため、本菌を分離した場合に医療機関は速やかに保健所に届け出るのが妥当であると考えます。同様に、社会に公表するかどうかも医療機関執行部や保健所と協議して状況により判断すべきです。公表には大きくホームページ上の公報と記者会見という二つの方法がありますが、多剤耐性菌の出現や医療関連感染そのものは医療という営為の中で完全には避けられない事象ですから、特に明らかな過失等の理由がない場合、安易に謝罪しないことが重要です(記者会見については参考文献の松村らを参照)。

 最大の耐性菌対策は未然の予防です。カルバペネムの過剰使用が耐性アシネトバクターの増加に間与していることを示唆する報告もあり(Go ら)、アシネトバクター感染症の貴重な治療薬であるカルバペネムを乱用しないことも重要な対策です。

 比較的乾燥に強い本菌について、オランダの感染管理専門家であるテア・ダーハ女史は「アシネトバクターはグラム陽性菌のようにふるまうグラム陰性菌であり、広がるのに速く、取り除くのに難しく、患者の予後は厳しく、とくに免疫抑制のある患者ではそうである」と称しました。MDR-AB対策は本質的に難しく、簡単で一意的な解決策はありません。普段から細菌検査室、感染管理チーム(ICT)、病院長などの執行部、そして各科診療医や看護師等が普段から十分なコミュニケーションをとり、耐性菌が分離されたときに速やかに適切な対応がとれる体制と人間関係を構築しておくことが肝要です。

 

 本稿はその性質上早期の情報提供を念頭に作成しました。時間の関係等からその内容は筆者の私見であり、神戸大学病院あるいは神戸大学の公式見解ではありません。

 

参考文献

 

Dijkshoorn L, Nemec A, and Seifert H. An increasing threat in hospitals: multidrug-resistant Acinetobacter baumannii. Nat Rev Microbiol. 2007 ;5:939-51.

 

Go ES, Urban C, Burns J et al. Clinical and molecular epidemiology of acinetobacter infections sensitive only to polymyxin B and sulbactam. Lancet. 1994 ;344:1329-32.

 

Bernards AT, Frénay HM, Lim BT et al. Methicillin-resistant Staphylococcus aureus and Acinetobacter baumannii: an unexpected difference in epidemiologic behavior.Am J Infect Control. 1998 ;26:544-51.

 

Maragakis LL and Perl TM. Acinetobacter baumannii: Epidemiology, Antimicrobial Resistance, and Treatment Options. Clinical Infectious Diseases 2008;46:125463

 

Denton M, Wilcox MH, Parnell P et al. Role of environmental cleaning in controlling an outbreak of Acinetobacter baumannii on a neurosurgical intensive care unit. J Hosp Infect. 2004 ;56:106-10.

 

 

アシネトバクター感染症について 横浜市衛生研究所 http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/idsc/disease/acinetobacter1.html

 

舘田 一博 多剤耐性アシネトバクターについて 日本感染症学会 http://www.kansensho.or.jp/topics/100907acinetobacter-2.html

 

松村理司ら 地域医療は再生する 病院総合医の可能性とその教育・研修 医学書院 2010

 

参考

 

神戸大学病院感染症内科が入手しているポリミキシンB使用までのプロセス

 

1.臨床研究として倫理委員会に申請、許可を得る。

2.業者を通じて輸入(RHC http://www.rhc-net.com/)。購入には研究費を使用。

3.患者発生時、患者もしくはその家族に未承認薬であることや副作用情報、有害事象発生時の補償がないことなどを伝え、文書で同意を得て使用。研究の一環として抗菌薬は無料で患者に提供。

 

http://www.med.kobe-u.ac.jp/ke2bai/contents/kenkyu/index.html

 

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